招かざる訪問者1
ヴァイスに重症を負わせたことで戦争は収束し、NIHONが完全勝利をした。
それは、今や世界的ニュースになっているらしい。
そして、ヴァイスは暗黙の了解を破ったとして、リヴァーバル帝国の塔に入っているそうだ。
シエル目線――
戦争が終わった翌日。
学園に戻ると、昨日の喧騒が嘘のように、いつもの平和な光景が広がっていた。
以前と変わらないような光景。
食堂ではいつものように賑やかな声が飛び交い、大浴場も、以前のように穏やかな空気が流れている。
でも――私の心は全然穏やかではない。
その理由の一つは、ディオンとローレンがまだ目を覚ましていないこと。
ディオンは危険な状態だったけど、戦地で私が治癒魔法を使い、なんとか持ちこたえさせた。
学園に戻ったディオンを診た看護師は、そのうち目を覚ますと言ったけど、もう5日も経っている。
当たり前だけど、ディオンが戦地にいた理由を聞かれた。
髪色が出陣時と違っていたおかげか、『私が魔力の暴走をしかけたのを遠くから察知して、駆け付けてくれたんです』と答えたけど、誰も私の言葉を疑わなかった。
ちなみに、ディオンだけ特別室のような病室を用意してもらっていた。
その特別室に、多くの女子生徒が詰めかけたせいで、立ち入り禁止になり、警備員まで配置されてしまった。
だから、あの日から一度もディオンの姿を目にしていない。
「今日こそはカミヅキ様の寝顔を見れると思ったのにっ!」
「お見舞いくらいいいじゃんね~!あの警備員め!超ケチ!」
こんな声が廊下を通るたびに耳に入ってくる。
一方、私を助けて重症を負ってしまったローレンは、上級クラス棟の最上階の端に特設された戦後の医務室のような部屋で、今も眠り続けている。
二人が目を覚まさない限り、心の不安は消えないままだ。
だけど、それだけじゃない。
私の心が晴れない理由は、もう1つある。
それは――
私を殺した犯人が、ディオンなのではないかという疑いだ。
あの……髪の長いディオンが頭から離れない。
崖の上で私が意識を取り戻した時、ディオンは黒髪のロングヘア姿で倒れていた。
あの姿は、私が学園で見失ってしまった後ろ姿と、前世で死ぬ前に見た姿と、あまりにも酷似していた。
思い返すと、ディオンの声があの私を殺した奴に似ていると、過去に何度も思った事があった。
この世界と、前世の世界は別物。
だけど、ディオンなら大魔法使い様なんだから、前世の世界に行く事も可能なんじゃないかと思う。
書庫で読んだ情報を元に考えると、逆にディオンクラスじゃないと行けない気がする。




