俺は、お前が……15
ディオン目線――
ふと薄く瞼を開けた。
かすむ視界に、不自然なほど攻撃を放ち続けるシエルが映った。
そのシエルの髪は何故か白い。
「シ……ル……?」
喉に焼けたような痛みが走り、かすれた声が出た。
その時、先ほど攻撃に当たってしまった事を思い出す。
あんな攻撃を受けたのに、まだ生きているって事は、もしかしてシエルが治癒魔法を……?
そう思ってヴァイスの姿を探すが、見当たらない。
魔力に意識を向けると、ここにはヴァイスは居ないように思えた。
俺が意識を失っている間に、一体何が起こったんだ。
「……エル……」
俺の声に全く反応しない。
どこかに攻撃し続けているその姿に、やっと酷い違和感を覚えた。
その正体を確かめようと、ガクガクと震える体を奮い立たせて立ち上がる。
全身焼けるような激痛が俺を襲う。
「おい」
シエルに声をかけ、その顔を覗き込んだ瞬間――
瞳孔が完全に開ききったままのシエルが、俺の目に映った。
あんなに枯渇していたシエルの魔力が、今はありえないほどに溢れている。
そして、その魔力は体の枠に収まりきらずに、垂れ流されるように放出され続けている。
その時、ある予感が頭を過る。
「まさか……」
魔力の覚醒……っ!?
どうして……?
いや、今は理由なんてどうでもいい!
一刻も早く抑え込むのが先だ。
このままだとシエルの体がもたないっ!
「シエル……ッ!」
肩を掴み、強く揺さぶりながら名前を呼んだ。
でも、なんの反応もない。
俺の声なんて届いていないようだ。
通常なら魔力暴走と同ように、俺の魔力で抑え込む所だが――この膨大な魔力を相手に、今の俺では抑え込むのは難しいだろう。
他に、正気に戻すという手もあるらしいが……
いや、難しいだなんて言ってられねぇ!
やるしかない!
すぐに垂れ流されていく魔力を壊さないように、慎重に汲み取るようにして抑え込んでいく。
全身を襲う痛みで薄れそうな集中力を、なんとか保ちながら……
辺りでは、酷い雨に加えて、雷が鳴り始める。
こんな場所に留まっていては危険だという焦りも湧く。
その時、シエルの全身がガクガクと震え出した。
それは、シエルが危険な状態に陥っていることを意味していた。
魔力の覚醒をしたとき、誰にも抑えられなかった場合は、魔力を全放出して、死に至る。
俺が1歳の時も、たまたま近くにいた、数名の魔法自衛隊が駆け付けて抑え込んだらしい。
「くっ……」
抑え込もうとしても、魔力は先回りするようにあふれ出して来やがる。
このままじゃ、絶対間に合わない!
空にかざしているシエルの手からは、もう何も出ていない。
髪色も白から黒へと変わり始めている。
目の前に『死』が迫っている状況に、奥歯を噛みしめ、再びシエルの肩を激しく揺らした。
「おい!シエル!俺だ!聞こえねぇのかよ!!」
絶対、殺させない!!
絶対に……っ!!
「死ぬんじゃねぇよ……っ!!」
そう言ってシエルの口を塞いだ。
その瞬間、シエルの体がビクっと震えた。




