俺は、お前が……12
そして、シエルの頬にキスをした。
シエルはその瞬間、瞳いっぱいに涙を溜めた。
「うっ……」
その時、正気を保っていられない程の怒りに、体の異変を感じた。
「手が止まってるよ?」
シエルは、横目で俺を見る。
「ディオン……、み……見ないで……」
シエルはギュっと目を閉じてシャツを落とし、白いブラジャーを露わにした。
ずっと浮かべていた涙が、シエルの頬にすっと伝う。
次の瞬間、俺の中で何かが弾けた。
抑えきれない怒りが、全身を駆け巡る。
その瞬間、ヴァイスがかけた固定魔法がバラバラに砕け散っていくのがわかった。
怒りで魔法が解除される事なんてあるのか、と驚くよりも早く、俺はヴァイスからシエルを引きはがすように、魔法を放っていた。
ヴァイスは全く気付いていなかったようで、俺の魔法は見事に直撃し、猛烈な速さで空へと吹き飛んでいった。
すぐさまシエルの元に行き、無事を確かめる。
「大丈夫か!?」
驚いた顔のシエルは、次の瞬間、クシャっと泣き顔に変わった。
「ディオン……」
ボロボロと涙をこぼすシエルに、守ってやりたいという気持ちがこみ上げてくる。
愛おしさで、胸がいっぱいになる。
こんな感情、初めてだ。
「シエル……」
俺はシャツを拾い上げ、シエルの肩にかけた。
そしてシエルの頬にそっと手を添える。
温かく、柔らかい感触に、無事助けられたことを再び安堵が広がる。
シエルを助けれるのなら、俺はいくらボロボロになってもいい。
それほどに、俺はお前が大事で守りたい。
泣かせたくねぇし、もし泣かす奴がいたらマジでぶっ殺してやりてぇって思う。
ずっと隣にいる男は、他の誰でもない俺であってほしい。
そうじゃねぇと許せねぇ。
こんな感情の存在を、俺は――知識として知っている。
きっと俺は、お前が……
シエルの事が、好きなんだろう。
「ディオン!」
泣きながら抱き着かれて腹部に激痛が走った。
「うっ」
俺の声にハッとしたシエルは、すぐに俺の腹を見て顔を歪めた。
「ディオン……ッ!すぐに治すから!」
俺は手をかざそうとするシエルを、「それは後でいい」と言って止める。
「えっ?」
「それより、早くここから移動するぞ」
ヴァイスはすぐ戻ってくるだろう。
しかも、俺もシエルもこんな状態だ。
そう思い、シエルの手を取ろうとすると、頭上に眩しい光を感じた。
見上げると、先ほどシエルに向かったものと同じくらいの魔力の球があった。
「よくもやってくれたね……。僕をコケにした罰は受けてもらうからね」
球の下で片手を挙げているのは、先程までとは違う、薄汚れたヴァイス。
ここから離れてはいるが、あんな攻撃が当たったらひとたまりもないだろう。
でも、この距離なら余裕で避けれる。
だからそんな攻撃なんて全くの無意味だ。
そう思った時、魔法は勢いよく放たれた。
当然のようにこちらに向かってくると思っていた球は、何故か少し軌道が逸れていた。
その事に不思議に思った次の瞬間――
シエルが俺の前から消えた。




