俺は、お前が……9
「嫌っ!何これ、ほどいてっ」
シエルは大の字で張り付けられ、魔法の蔓から逃れようと必死にもがいていた。
もしそれが本物の蔓ならば、その抵抗で自由になれるかもしれないが、それはどっからどう見ても魔法で作られたものだ。
どれだけ暴れても逃げれるはずがない。
「ヴァイス!何してんだ!止めろ!」
俺はヴァイスに向かって、喉が焼けるような怒りを込めて叫んだ。
ヴァイスの冷たい笑みが視界に入る。
「今日のカミヅキは、煩いね」
ヴァイスに指先を向けられた瞬間、自分の口元が石のように硬直したのが分かった。
「僕は、あの冷酷で冷静沈着なカミヅキの方が好きだな」
声も動きも、一切が封じられたと、そう思った。
その瞬間、初めて自分が酷く無力に存在になったような感覚に陥った。
「これで暫く大人しくなるね。せっかくだから、今から楽しいショーを開いてあげる。だから、そこで大人しく見とくといいよ」
ショー、……だと?
ヴァイスの表情に潜む悪意が、俺の心を一気に冷やしていく。
「でも、ショーを始める前に……君には詫びてもらわないとな」
ヴァイスは蔓を操り、シエルを無理やりその場に跪かせた。
「リヴァーバル帝国の皇帝陛下とほぼ同等の地位を持つ僕に攻撃をするなんて――、本来なら有無を言わさず打ち首なんだよ?」
シエルと目線を合わすように、屈んで覗き込むヴァイスは続けた。
「でも、寛大な心を持つ僕は、今回だけは君を許してあげる。だって、君は僕の事を知らなかっただけだもんね?」
そう言うと、ヴァイスは薄笑いを浮かべながら、シエルの顎を長い指でそっと持ち上げた。
「だから……謝って?高貴なヴァイス様に攻撃してしまって、大変申し訳ありませんでした。って」
シエルはヴァイスをキッと睨みつける。
「なんで!?ここは戦場よ!?身分なんて関係ないはずだわ。それにあなたは大魔法使いでしょ!?あなたの方が皆に謝るべきだわ!」
シエルの言葉に、ヴァイスは目を見開いた。
「あれ……おかしいな?僕言ったかな?まだだったはずなんだけど……」
「見たら分かるわ!ディオンの魔力量と変わらないもの!」
「……ほう……。君は魔力が見えるのか?」
ヴァイスは、ふふっと楽し気に笑い、口を開いた。
「君、凄くいいね。そうだよ!君の言う通り、僕はカミヅキと同じ大魔法使いだ!もう少し後にバラしたかったんだけどね。残念」
「やっぱり……ルールを破っていたのね。あなたさえ来なければ……
あなたのせいで、沢山の人たちが傷付いたのよ!謝って!そして今すぐ治しなさいよ!!」
シエルがそう叫ぶと、ヴァイスはスッと目を細くした。
「……君、全然自分の立場というのが分かってないね」
ヴァイスは魔法で2本の細い蔓を操り、シエルの首に巻き付けていく。
そんな様子に再び俺の心が凍り付くと、ヴァイスは口角を上げて俺を流し目で見てくる。
その目に、俺の怒りと殺意をさらに煽り立てる。
ヴァイスに気を取られている隙に、シエルは悶えて、顔がだんだんと赤くなって行く。
「……うっ」




