俺は、お前が……4
…………
……
はー、マジで危なかった……
俺が来なかったら……
もし、あとほんの数秒でも遅かったら……
シエルはこの世に居なかっただろう。
シエルがこの世から居なくなる事を想像するだけで、自分が自分でなくなるような感覚に陥りそうになる。
そんな事になっていたら……俺は、シエルを助けられなかった自分を一生許せなかったと思う。
「これが、呪いじゃねぇんだもんな……。じゃあ、なんで俺はこんなにも……」
とりあえず、このくだらねぇことを終わらせてから考えるか。
そう思った俺は、空を飛びながら向かってくる攻撃をひたすらかわしつつ、静かに心を切り替えた。
何百年と生きてきたけど、戦争なんて参戦したことも見たこともねぇ。
だからよく分かんねーけど、手っ取り早く戦争を終わらせるには、勢力を大幅に削ればいいはずだ。
って事は、向こう側にもさっきみたいな攻撃をすりゃ、それで終わりだよな?
そう思って、うじゃうじゃと見える人混みに向かって手をかざすと
『お願い、人殺しになんてならないで……』
と言うシエルの声が浮かんで来て、頭を抱えた。
「くっ……またかよっ」
あー、なんで俺が毎回毎回シエルの言葉に邪魔されなきゃならないんだ!
誰のために動いてると思ってんだ!
「やっぱ……呪いだろ」
そう呟くと、敵陣の空部隊からも歩兵側からも、凄い数の攻撃が一斉に飛んで来る。
すぐに体の周りにシールドを張って、宙に浮いたまま、あぐらをかいてどうしたものかと頭を悩ます。
「うーん……」
ここから見た感じ、敵兵は数万はいそうだ。
全員を眠らすとかマヒさせるとか、そんな小賢しい魔法をこれだけの人数にかけるなんてありえない。非効率過ぎる。
もっと簡単に効率よく制圧する方法は……
そう考えて腕を組んで首をかしげた時、
「指揮官!全く攻撃が効きません!」
という声が耳に入ってきた。
そうか……
これだ。
俺はポンと手を叩いてから目を閉じ、魔力に意識を傾ける。
すると、パパッと浮かび上がってくる大中小の魔力。
きっと、大きい魔力の持ち主だけでも動けなくしてやれば――終結する。
そう思った時、かなり奥にある崖上付近から、膨大な魔力を感じて目を見開いた。
「は?……この魔力……、まさか……」
嫌な予感が走って、すぐに真相を確かめるべく敵陣の間をぬって、崖の上に向かった。
でも、行く手を拒むかのように沢山の攻撃魔法が飛んでくる。
「うっざ」
シールドで守られているとは言っても、パチパチと飛んでくる魔法が眩しいし、鬱陶しい以外の何者でもない。
俺は舌打ちをしてから、攻撃してくる側に向かって突風を放った。
すると、すぐに歩兵はドミノ崩しのように倒れて行き、空兵も遠くに飛ばされていく。
「あ……、やり過ぎたか?手加減って難しいな」
ま、でもこの程度では死なねーだろ。と心の中で呟いたあと、再び崖の上を目指した。
まるで塔のように高い崖を登り詰め、トスッと頂上に片足を降ろす。
顔を上げると、戦場に似つかわしくない天蓋付きの王宮ベッドのような、神々しい家具が目に入って来た。
その家具の周りでは、数人の兵士が警戒した様子でこちらを見ている。
「いらっしゃい」
そんな声に王宮ベッドの中に目を向けようとすると――
周りにいた兵士からの総攻撃が飛んで来た。
でも、シールドを張っているお蔭で痛くも痒くもない。
「何っ……私達の攻撃が効かないなんて!」
驚きを隠せない兵士に「うざい」と手の平を向けると、王宮ベッドの中から声が飛んできた。
「待って」
その声に、再び王宮ベッドの中に目を向ける。
すると、ゆったりと横たわる人物が目に映った。
その姿を瞳に捉えた瞬間、さっきの予感が正しかったんだと、ハッキリと悟った。
「もう攻撃させないから、僕の家来たちを殺さないでくれる?」
その人物の言葉に驚く兵士たち。
俺はシエルを泣かせ、殺そうとした目の前の人物に殺意を渦巻かせながら口を開けた。
「やっぱお前か。どうして戦場にいる?……ヴァイス」
王宮ベッドの中にいた人物はゆっくりと起き上がると、クスっと静かに笑みを浮かべた。




