俺は、お前が……3
だから襲おうとしていたあいつを必死で庇い、俺から守ったのか?
そう思うと、全ての辻褄が合う。
「なんだ……本当に、馬鹿馬鹿しい……」
ずっと分からなかった答えが分かったのに、この胸にあるのはスッキリと澄み渡る感覚ではなく、ぽかんと胸が開いたような空虚感だった。
心の中に、なんとも言えない悲しみがじわりと湧いてくる。
シエルに『やめて』と言われた時のような、心の中をかき乱す感覚に、額に手を当てた。
やっぱ、駄目だ……
もうシエルには会わねぇ。
なんとなく分かる。
今の俺は、ほんの一瞬会うのだって止めた方がいい。
シエルにとっても、俺にとっても……
そもそも、俺は誰とも慣れ合わない。
それでずっと上手く行っていたんだ。
ここ数年がおかしかっただけ。
ただ、元に戻るだけだ……
そう思って戦場に背を向けると、背中側からとんでもない光が現れた。
その光に誘われて振り返ると、敵陣の上空にとんでもないほどに巨大な魔力の塊が浮かんでいた。
その魔力の塊は、明らかに生徒や普通の魔法自衛隊が出せるような大きさではなくて、目を見開いた。
「……は?」
なんだ、あのでかさは……
直視するだけで目がやられそうなほどの魔力の塊は、なぜか陣の中心地から逸れた方向に向かって行った。
その方向先に違和感を感じた俺は、塊が向かうだろう先に目を向けた。
するとそこには――
膝をつくシエルらしき人物が居た。
そんな光景を目にした時、体が凍り付いた。
頭が真っ白になり、まるで時計の針が止まったかのよう。
なのに、その間にこの体は勝手に動いていた。
そして気付けば次の瞬間には、俺はシエルの前に移動していて、シエルを守るように立ちはだかっていた。
「何やってんだよ。馬鹿が」
勢いよく巨大で膨大な魔力の塊を打ち返した後、自分の体の芯に微かな震えを感じた。
この震えの原因は、きっと、1秒でも遅かったらシエルが死んでいたかもしれないという事実に対してだろう。
また勝手に動いた身体に不服を感じながらも、助ける事が出来て心底良かったという思いが一気に溢れてくる。
それにしても、なんなんだ!?
リヴァーヴァルにはあれほどの魔法使いがいるのか!?
あんなのが当たったら、さすがのシエルでも即死かもしれない。
「死ぬ気かよ……」
なんで逃げようともしなかったんだよ!
最後に見たあの時のシエルの目は、俺を拒否するような目だった。
あの目を思い出すと思う。
このまま振り返らずに、立ち去った方がいいんじゃないかと。
どうせお前だって、俺なんかに助けられたくねぇだろ?
俺だって、助けにくるつもりじゃなかったんだ。
約束を破りたかなかったけど、どうせ俺が来なくても、他の奴らが助けてくれる。そうだろ?
そんな胸が苦しくなるような思いを抱えながらも、振り返ってしまった。
すると、ひどくボロボロで涙でぐちゃぐちゃになったシエルの姿がこの瞳に映り込んだ。
その瞬間、俺がごちゃごちゃと悩んでいた事なんて、一瞬で吹っ飛んだ。
今の今まで、頭を悩ませていた色々な思いや迷いが、すべてがちっぽけに思えてきた。
今までの自分が、どれだけ無駄なことにこだわっていたのか――そう思うと、少し自分が情けなく感じた。
細かい事なんて、もうどうでもいい。
それよりも、もうこれ以上シエルを泣かせたくない。
守りたいと……そう強く思った。




