俺は、お前が……2
いくら聞いても、ハッキリと答えを教えない婆に、趣味が悪いと思った。
そういうスタンスなのか?
答えは自分で見つけろってか?
『後から来る自分』……
自分に奪い去られる……
何かの例えなのか……?
「くっ……」
解決するどころか、逆に分かんねぇ事が増えてしまったじゃねぇか!
俺はイラついて前髪を強くかきあげた。
シエルが戦地に行って数日が経った。
その間、不安は日を追うごとに募っていく。
戦場での様子を想像するたびに、胸が締めつけられるほどに不安に駆られた。
そんなある日――
今日も落ち着かない俺は、椅子に深く腰かけ、悩まし気に頭に手を当てて呟く。
「こんなの、いつまで続くんだ……?」
戦争が終わるまで続くのか?
これが呪いじゃないとしたら、これほどシエルに執着する理由はなんなのか……
未知の自分に戸惑い、嫌悪感が湧いて来る。
「良いものだ?嘘だろ」
シエルが糞野郎を庇うまでは、シエルに対しての気持ちは、こんな胸糞悪いものじゃなかった……
全部、あの日を境に変わってしまった。
「はー……」
深いため息をついた瞬間、突然、胸が酷くザワついた。
その瞬間、思った。
まさか……
シエルの身に何かが……っ!
そんな考えが一瞬浮かぶと、居ても立っても居られなり、生きた心地すらしなくなった。
俺は予言者じゃない。
でも、素質があるのか、こういう予感は何故か当たる事が多かった。
だから余計不安になる。
「やめろ……」
頭を押さえ、ため息をつく。
すると――
次の瞬間、目の前には広大な砂漠のような場所が広がっていた。
遠くで戦いが繰り広げられる様子が映る。
「マジかよ……」
結局俺は、また無意識のうちに動いてしまったようだ。
正直、情けない程に今のシエルの安否が気になる。
それはもう否定する気も起きないほどに。
シエルは、俺と変わらないほどの魔力の素質ががある。
それは、100年後には大魔法使いになっていてもおかしくはない程だ。
自己回復力も桁外れなのに、あのネックレスの効果もある。
しかも、シエルの周りには優秀な人物が多い。
だから万が一、リヴァーヴァル側に予想以上の奴がいたとしても、ある程度は守られるはずだ。
だから、NIHON側が全滅したとしても、シエルだけは生き残る可能性が高い。ついでにあの転校生も。
って……、俺は何回同じ事を考えてるんだ。
まるで自分を納得させるための言い訳みたいだ。
「はぁー」
そうだ。
安否が気になるからシエルが頭から離れないんだ。
それさえ確かめれば、もう考えなくて済むかもしんねぇ。
一瞬だけ……
ほんの一瞬だけ確認したら、ここを去ろう。
その後は、間違ってでも会いにいけないように、一度や二度の瞬間移動では来れないほどに遠く離れた所に移住しよう。
またNIHON食じゃなくなるのだけは心残りだが、仕方ない。
そう心に決めてから、怪しまれないように恰好を男子生徒の制服変え、見た目年齢をシエルと同じくらいに変え、髪色を黒に変えた。
そして教えてもらった、魔力が見えなくなる魔法を使って……
「あとは顔も平凡な感じに変えとくか」
そう呟いた時――
あの時の様子が脳裏に映し出された。
服が酷く乱れ、涙を浮かべるシエルが懇願するように奴らを庇う姿……
そんな映像に、一瞬で胸糞悪くなって、頭の血管がちぎれそうになる。
「はぁー、はぁー」
髪をむしるように掴んで、胸元に手を当てた。
「首にかけたあの魔法程度じゃ……足んねぇ……」
シエルを欲すると、自爆するという、あの魔法じゃ……
あの時の様子や、シエルにかけられていた魔法からして、合意ではないのは一目瞭然だった。
シエルは足元にいた野郎を、特に不自然なほどに庇った!
俺が来なかったら確実に襲われてたってのに!
本当だったら殺して欲しいと願うはずだ!
なのにあんなに庇うなんて、まるで……襲われても良かったみたいじゃねぇか!
「気に食わねぇ!!」
助けたはずなのに、まるで俺が悪い事をしたみてぇな扱いに、異様に腹が立った。
……まさかっ、
シエルは、あいつの事が好きだった……!?




