俺は、お前が……1
ディオン目線――
戦争出発の前々日、俺は地球の裏側にいる研究者が、魔力を感知できなくする研究に成功したという情報を耳にした。
国の情勢を荒立てる事なくシエルを助ける方法はこれしかないと思い、すぐに地球の裏側まで行き、伝授してもらった。
そして翌日、学園に戻って来ると――シエルの魔力は何故か男子寮の中にあって……
その後の事は、もう思い出したくもない。
一瞬でも思い出すと腸が煮えくり返り、吐き気がする。
あのゴミ糞野郎どもにも、あの野郎らを庇ったシエルの事にも……
仲いいのか知らねぇけど、あんな事をしようとした奴らを守ろうとするシエルに、色々と馬鹿馬鹿しく思えて来る。
なんで大魔法使いであるこの俺が、たった一人の人間のために地球の裏側まで走らされているのかと、笑いがこみ上げてきそうにもなる。
これも全部――呪いのせいだ。
あの時、『殺さないで』と言われて、俺は乗っ取られているかのように本当に何も出来なくなった。
そんなのは一度や二度ではない。
シエルの思惑通りに動かされるのは、もう、うんざりだ……
そう思った俺は、この忌々《いまいま》しい呪いを解くために、世界一呪いに詳しい事で名高い奴の元に向かった。
でも、到着するなり俺は、目を見張った。
それは、女子供が好きそうな、おとぎ話から出てきたようなファンシーな館だったからだ。
「本当に、ここで合ってるのか?」
そう呟くと、ハート型のドアが一人でに開いた。
まるで俺に入れと言っているかのように。
ゆっくりと足を踏み入れると、俺の目に、頭にチューリップが咲いた婆が映り込んでギョっとした。
すると、婆はいきなり、「呪いじゃないよ」と言った。
「は?」
「お前さんは、呪いを解いて欲しくて、遥々《はるばる》NIHONから来たんだろう?」
その言葉に、正直驚いた。
予言や占いでも有名な奴だと聞いていたが、それは本当だったんだと、瞬時に思った。
「……ああ。そうだ」
猫みたいな大きな目で見つめられる。
その目は、まるでこの世のすべてを見透かしているように思えた。
「これは、本当に呪いじゃないのか?」
「そうだよ。お前さんが呪いだと思っているのは、もっと良いものさ」
「良いもの?」
「本当はお前さんも分かってるはずじゃよ。でも……生い立ちのせいかの……?上手く認めれない感じじゃな。でも、あまりおちおちしていると、後から来る自分に奪い去られてしまうぞい」
後から来る自分……?
「奪い去られた後は、もうお前さんでは手の届かない場所に連れて行かれてしまう。じゃから、十分に気を引き締めた方がいい」




