裂かれた大地19
目の前の男子生徒は、迫りくる魔力の球に向かって片手をかざしたと思うと、なんと、その巨大な球をそのまま敵陣に打ち返した。
あんな魔力の塊を、何の躊躇もなく打ち返した事に、驚きが隠せない。
「……っ!」
打ち返した球は敵陣に落ちて、突風がこちら側にも吹きつけた。
砂埃が襲って来る中、手で目元をかばいながら男子生徒を見上げると、ローブがパタパタと揺れていた。
「死ぬ気かよ」
男子生徒がそう言うと、ゆっくりと振り返り始めた。
少しづつ見えて来るその顔から、私は1秒たりとも目が離せなかった。
ゆっくりと、その顔がついに露わになり、私の瞳に映り込んだ。
切れ長の目、すっと通った鼻筋――バランスの取れた顔立ちは驚くほど美しい。
その姿は、私の知るディオンにそっくりだった。
でも髪色が違うし、どう見ても私と同じくらいの年齢にしか見えないほどに幼い……
はっ!まさか!
ディオンは年齢と髪色を変えて、生徒のフリをして参戦した!?
そんな事したって、魔力のせいでディオンだとすぐにバレるのに……
と思った瞬間、あることに気づいた。
それは、ディオンらしき人物から、《《魔力の気配自体がほとんど感じられない》》という事だ。
魔力が減りすぎて、もう魔力を目視では見れない。
けど、大きな魔力ならまだ感じる事は出来ている。
なのに……、あんな凄い魔法を跳ね返したとは思えないほどの魔力しか感じない。
一体どうなっているのか……
ディオンにとても似た謎の男子生徒は、風でなびく前髪を鬱陶しそうにかき上げて呟いた。
「絶対来ねぇって、思っていたのに……」
やっぱり、何度聞いてもその声は、ディオンそのもの。
長いまつげに守られているかのような黒い瞳が、悔し気に私の体を隅々《すみずみ》と確認する。
まるで私の無事を確かめるように。
一通り確認が終わったのか、ふいっと顔を逸らすと、大きなため息をつかれる。
「もしかして、ディ……んん!?」
ディオンなの?と聞こうとしたとき、突然目の前に現れたテープで口を塞がれた。
「国の奴らがあっから見てる」
ディオンらしき人物が、顎で空をさした。
上空を見上げると、何かが空中に浮いていた。
目を凝らすと、それは魔法会の時に浮かんでいる、あのカメラのように見えた。
「いい趣味してるよな。マジで言葉の通り高みの見物だぜ」
ディオンだ……
やっぱり、ディオンだっ!!
もしかして、私を助けに来てくれたの……?
もう、絶対来ないと思っていたのに……
あんなに、ディオンは来なくて良かったと思っていたのに、来てくれた事が凄く嬉しくて涙が浮かんで来てしまう。




