裂かれた大地16
でも、なぜか痛みをあまり感じなくて、不思議な気持ちで強くつむった目をゆっくり開けた。
すると、私を庇うようにして壁になったローレンが、この瞳いっぱいに映った。
「……えっ……」
信じられない光景に、目を疑った。
ぶつかったのは球ではなく――私を庇ったローレンだった。
そう気付いた瞬間から落下を始めるローレン。
「ローレン!!」
慌ててローレンに手を伸ばしたけど、今度は一歩間に合わずに空気を掴む。
「ローレンーー!!」
追いかけるも、頭から地面に落ちていくローレンには、あと少しのところで手が届かない。
こんな事なら、早く飛べる練習でもしておけば良かった。そんな、今さらの後悔が胸をよぎる。
地面が近付いて来て、追いかけても間に合わないと判断した私は、すばやく手を地面に向け、逆風を起こすための魔法を放った。
その風におかげでローレンの落下速度は緩やかになって、ローレンはゆっくりと地面に着地をした。
その様子を確認してから、私もすぐにローレンの横に着地した。
「ローレン!!」
いくら呼んでも何の反応もない。
ローレンの口の端からは、血が伝っている。
信じられない……
まさか……死んだ!?そんなわけないよね!?
「ローレン!お願い!返事をして!」
手をかざして回復魔法をかけ始める。
「絶対死なせないから!!目を覚まして!!」
すると、「タチバナさん!ちゃんと壁を作って!そうじゃないと私たちも……」と叫ぶ声が頭上から聞こえて来た。
そうだっ……
でも……
こんなローレンを置いて、戻れるわけが……
葛藤の中、私は頭上からの声を無視してローレンに回復魔法を続けた。
泣いても何も変わらないのに、涙が溢れてくる。
「私、生きて帰らないと、許さないって……言いましたよ……」
そして零れ落ちた涙は、血の付いたローレンのローブにシミを作っていく。
近くにいた歩兵隊が駆け寄って来たと思うと、すぐにローレンに回復魔法をかけ始めた。
「サオトメ様は私が治療します!だからタチバナさんは、早く空の壁を……っ」
正直、目が覚めるまで傍に居たい。
「あ、りがとうございます。……お願いします」
でも、そんな気持ちを抑えて涙を拭って立ち上がり、雲行きの怪しい空を見上げた。
ちょうどその時、手薄になっていた上空の壁が完全に割れて、飛んで来ていた攻撃が次々と上空部隊に当たって行く様子が映った。
「……っ!」
上空部隊がすぐに落下し始める。
その光景に、心が凍りつく。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
でも、これは現実だ。
これは、私が引いた引き金だ……
私のせいで……
私が抜けたせいで……っ!!
頭の中が混乱し始め、冷静な判断ができなくなる。
胸が苦しくて息ができない。
どうしようと焦る気持ちが渦巻く。
そんな自分を奮い立たすようにして、空に向かって大きく手を広げた。




