裂かれた大地15
その事に嬉しく思ってしまうのは、いけないのだろうか。
「お待たせ」
テントに戻って来たアランはカレーの匂いと、柔らかな湯気を連れてきた。
「ありがとう」
数日後――
ずっと優勢だった。
なのに、昨日を境に、それまでが嘘のように一気に戦況が苦戦へと変わった。
歩兵たちの顔も険しく変わり果て、全員がひどい疲労に包まれている。
治癒が全然間に合ってないのは明らかで、皆がボロボロの状態だ。
ローレンの髪もほとんど黒になり、地上部隊も同じように疲れ果てている。
今すぐにでも休憩を取るべきなのに、指揮官はそんな指示を出す余裕もないのか、指示が飛んでこない。
いや、ここで誰かが抜けてしまえば、陣が一気に崩れる危険性があるからかもしれない。
余裕なんじゃなかったの?
勝利目前だと言っていたのは嘘だったの?
最初はそう思った。
でも今なら分かる。
こんな事態になった原因は、昨日、突然敵陣に現れた――
ディオン並みの魔法使いのせいだと。
敵陣のかなり後方から放たれる、濃くて大きいオーラのような魔力。
あれはどう見ても、ディオン並みの力だ。
学園長をはるかに超える強大な魔力。
そんなもの、昨日までは絶対に存在していなかった。
だって、あんなのが居たら一目で分かるから。途中から参戦したのは明らか。
指揮官とかは、この状況に気付いてないんだろうか……?
そんな事を考えていると、ディオンが言った『暗黙のルール』という言葉が脳裏に浮かんだ。
「まさか……破った……?」
もし、この予想が正解だったとしたら、今後は大変なことになるだろう。
防御壁を何重にも作っても、あのオーラのある場所から時々飛んでくる魔法のせいで、毎回バラバラに砕け散っていく。
これは偶然ではなく必然なんだと思う。
私は、あのオーラを見てから、ずっと恐れていることがある。
それは――この魔力の持ち主が本気を出す瞬間だ。
あの魔力の主は、戦場にいる人間の中で断トツの力を持っているはずなのに、今やっていることは補助やサポートに近い。
理由は分からないけど、まともに戦ってはいないように思う。
もし、この魔力の持ち主が本気を出してしまったら、間違いなくNIHONは全滅するはずだ。
だから、敗北するタイミングを、あの魔力の持ち主が握っているような状況に、ずっと生きている心地がしない。
その時、突然私達のチームを守る壁がスッと消えた。
そのことに驚くと同時に、隣に居たSクラス生が力尽きたように落下を始めた。
「えっ……」
すぐに手を伸ばして、危機一髪の所で手を掴む。
目を閉じたまま気を失っているように見えるチームメイトの髪は、完全な真っ黒に変わっていた。
テントに連れて行こうと思った時、すぐにチームメイトが飛んで来る。
「魔力切れですね!私がテントに連れて行きます!」
チームメイトが、魔法が飛び交う中を上手く避けて地上へと舞い降りていく様子を、ひどい疲労感の中で見届けていると――
「シエルちゃん!!前!!」
ローレンの叫び声が聞こえた。
顔を上げると、避けられないほど近くに、拳大ほどの光の球がこちらに向かってきているのが見えた。
間に合わないと思った、次の瞬間――強い衝撃が体に伝わった。




