裂かれた大地14
…………
……
そうだったんだ……
「ありがとう。あの部屋から助けてくれたの、アランだったんだね」
「いや、俺だけちゃう。あいつらもめっちゃ動いてくれていたし」
「じゃあ、何かお礼しないと……。もし戦場から戻れたら紹介してくれる?」
「ああ。って……戻れたらってなんやねん。戻れるに決まってるやろ」
そう言われて、視線を落とした。
「……そう……だよね。はは……」
今のところ、NIHONが押してるんだもんね。
そう分かっていても不安な私は、無理に笑ってみせた。
するとアランの手が伸びて来て、私のサイドの髪をそっとかきあげた。
「……もう、大丈夫?」
「うん……」
「良かったわ。一時期はどうなるかと思ったけど」
「あれが、過呼吸なんだね……」
名前は聞いた事あったけど……
アランが的確な処置をしてくれなかったら、また意識が飛んでいたと思う。
「シエルちゃんは色々抱え込み過ぎなんやろうな」
「そうなんかな……」
なんだかんだ言って、みんな色々と抱えている気がするけど。
「俺は……そんなシエルちゃんの力になりたいんやけど」
そう言いながら、アランはそのまま私の顔を掴んで、ぐっと引き寄せた。
「ちょっ……アラン!?」
ドキッとして思わず慌てて身を引くと、アランは「シエルちゃんは恥ずかしがり屋やなぁ」と笑う。
「アランの距離感がおかしいんでしょ!」
その時、ふと気付く。
「あれ?そういえば、布団代わりにかけてくれていた男子用ローブは、アランの物だよね?」
「ローブ……?ああ、せやな」
「じゃあ今着てるのは?」
「ん?これも俺のやで」
「え?なんで?」
「なんでって?」
「もしかして、何着か持ってるの?」
そういえば、支給される1セット以外は有料で買えるのよね。
なんか、手も届かないほどに高かった記憶しかないけど。
「あれ?普通何着か持ってるもんちゃうん?汚れた時とか困るやん」
「えっ!?私、ずっと1着なんだけど」
「えっ?それ困らん?俺3着づつ持ってるんやけど」
「えっ!?3着も!?」
さすが、医者の家系なだけある。
アランは本当のお金持ちなんだ!
「それより、やっと髪が明るい色に戻ってきたな」
そう言われて自分の髪を掴んで見ると、完全に金髪に戻った自分の髪が映った。
「体はどう?」
その言葉に、自分の体に意識を向ける。
すると、驚くほど体が軽くなっていることに気付いた。
「うん。かなり良くなったみたい」
凄い……
回復のスピードに驚いていたその時、私のお腹がぐうっと鳴り、テント内に響いてしまった。
すると、アランが顔をクシャっとさせて笑う。
「おっきー音やな。ご飯まだやったもんな。給仕場に残ってたやつは、さっき全部ぶちまけてしもうたから、隣のテントとかに残ってないか見てくるわ」
「いいよ。私が自分で行く」
「ええから。あんなんあったところやし、シエルちゃんはここで休んどき」
「う……うん。ありがとう」
アランは優しいな……
アランが出て行って、突然静まり返るテント内。
一人残された私は、先ほどあった出来事を思い出してしまう――
――約1時間ほど前
突然主犯格はもがき苦しみ始め、私たちがうろたえている間に、指揮官がテントに入ってきた。
指揮官は主犯格を一目見るなり、主犯格の首にある魔法が原因だと分かったようで、解除魔法を試みた。でも、全く効果がなかった。
回復魔法も何故か跳ね返され、手の施しようがないまま、犯人は瞬く間に瀕死の状態に陥っていった。
指揮官は自分一人では無理だと判断し、主犯格を指揮官用のテントに運び込む。
そして、上級の魔法使いである指揮官が数人がかりでなんとか魔法を解き、主犯格の命を取り留めた。
その後、過呼吸から回復した私やアランは事情聴取を受けた。
私たちに非がない事が分かると、すぐに釈放され、アランからこれまでの経緯を聞いていた。
そして今に至る。
事情聴取をした指揮官には色々と知られてしまったけど、そのおかげで、今後は私を襲った人たちと同じテントになることがないように配慮すると約束してくれた。
だから、誰にも知られたくはなかったけど、結果的にこれで良かったと思った。
ディオンは、私を守るためにあんな魔法をかけてくれたんだろう。
時限爆弾の引き金はきっと……私自身。




