裂かれた大地12
結局、違和感がないのか、誰にも気にかけられずに女子寮までたどり着いた。
なんだかんだ言って、変身作戦は成功だったようだ。
女子寮の中に入り、友人が魔法で鍵を開けると、久しぶりのシエルちゃんの部屋が現れた。
「悪い。ここで待っててくれ」
「分かった」
足を踏み入れると、入園したてのように物が最低限しかない部屋が映り込む。
そんな部屋を見回してから、そっとシエルちゃんをベッドの上に降ろす。
胸元には、俺のローブがかかったまま。
「なぁ、服を元に戻す魔法とかって無かったっけ」
俺は、廊下側で待ってくれている2人に小声で問いかけた。
「ありそうだけど、俺は知らないな」
「俺も」
「……そうか」
こんな格好のまま、目を覚ましたら……
「アランが今着てる服を着せてたらいいんじゃない?一応これ女子用だし」
「えっ……!?」
いやいや、そんなん出来るわけないやん!
しかもそれって、今シエルちゃんが着てる服を俺が脱がすって事になるやん!
俺がどんだけシエルちゃんの事を好きやと思ってんねん!そんなん出来るか!
でも……
これ以上シエルちゃんに傷付いて欲しくない……
そう思い自分のシャツに手を伸ばし、制服を脱ぎ始める。
その時、突然廊下側が騒がしい事に気付いた。
「え?どういう事?」
「何が……って、えぇ!?」
「ど、どうしよう」
「いいから、早くもう1回かけ直せ!」
「うん……あれ?なんで?」
「なんでって、こっちの台詞だよ。全然出来てないじゃん!さっきみたいに……」
「やってるよ!……でも……」
何騒いでるや。
「……おい、もう少し静かにしてくれへんか。バレたらヤバいんやか……ら…………」
そう言いながら廊下側を振り返ると、待機していた2人は、何故か完全に男の姿に戻っていた。
「は?なんでお前ら……」
「アラン!魔法が解けた!」
「へ?」
その言葉に、すぐに自分の姿を確認すると、さっきまで胸元まであった髪が無くなっていて、自分の頭を触る。
すると、いつも通りの髪の長さに戻っているのが分かった。
「早くここから出よう!バレたらマズイ!」
と言いながら友人がツカツカと部屋に入ってくる。
「魔法の掛け直しもしたけど、この通り上手く出来なかった」
俺が「いや、まだ……」と言いかけたその瞬間、友人が俺の手を引っ張って廊下に連れ出す。
ドアが閉められた途端、もう一人が神業のように魔法で鍵をカチリと閉めた。
色々気がかりな事を残したまま、俺は女子寮から引っ張り出されてしまった。
俺は、もう諦めるしかないと思い、ほぼ黒が確定している容疑者4人がいる保健室へと足を向けた。
保健室と書かれたドアを開けると、すぐに目に入ってきたのは、肩を落として反省している様子の3人と、見張っていた友人1人。看護師は今いないようだ。
3人が反省しているのは明らかで、俺のいない間に友人が説教をしたんだろうと思った。
という事は、やっぱり黒か?
一瞬で腸が煮えくり返りそうになると、一番奥のベッドに居る、あの時に頭から血を流していた奴も目に入った。
そいつは全く反省の色を見せず、ダラっと寝そべっていた。
その様子に苛立ち、即座に靴音を響かせてそいつの元へ向かう。
「おい、お前」
そう言うと、ダルそうな目が向く。
「さっき、あの部屋でシエルちゃんに何をしてたんや!!」
俺は叫びながら、そいつの胸倉を掴んだ。
「はよ言えや!!」
男はそんな俺を見ると、まだ血色の悪い顔でプッと吹き出すように笑った。




