裂かれた大地10
飛ぶようにベッドの上に乗って、顔色を確かめる。
「シエルちゃんっ!!」
息が上がる。
平常心を保とうと必死に意識しないと、気が狂ってしまいそうな光景が目の前に広がっていた。
思わず目を覆いたくなるような惨状だった。
でも、外傷や顔色を診てみたけど特に異常がなさそうに見える。
念のため、脈拍、体温、瞳孔も震える手で確認していく。
全てが正常。
なのに、何度呼んでも目を開けないし何の反応もない。
「シエルちゃん!」
すると、頭にシエルちゃんでは無い魔力が薄くまとわりついている事に気付いた。
手を伸ばすと、神経麻痺に睡眠作用のあるような魔法を感じる。
「この魔法……ここんところ、ずっと歩兵の攻撃魔法チームが練習してるやつやん」
まさか、それを乱用してシエルちゃんに……?
想像するだけで、酷い殺意が湧き上がる。
怒りで気が狂いそうになったのなんて、生まれて初めてだ。
「なんでこんな事になったんや……。まさか、こいつらがしたんか?」
魔法を掛けられてからかなり時間が経過しているのか、それとも自己治癒能力が飛びぬけて高いシエルちゃん自身がある程度の治癒をしたのか……
その辺りは分からないけど、もう微量の魔力しか残っていなくて、犯人を特定する事は出来なかった。
怒りと共に、やり場のない悲しみが胸を締め付ける。
震える手でシエルちゃんの髪を撫でる。
助けられなかった悔しさと、おぞましいほどの怒りに、気づけば涙がボロボロとこぼれていた。
その時、「どうしたんだ?」「なんか騒がしいな」と開けっ放しのドアから声が聞こえて来た。
やっと人が集まって来た。
そう思って涙を拭った瞬間、ある疑問が浮かんだ。
こいつらを……本当に助けていいんやろうか?、と。
今横たわってる奴らは、シエルちゃんを襲った可能性がかなり高い。
なのに、もし助けたら……また同じことするかもしれん。
そんなの、絶対許されへん!
でも、このまま放置すると死ぬ可能性がある。
医者の息子として、助かる命を見殺しになんて出来へん。
なにより、こいつらがまだ黒やと決まったわけちゃうんやし……
俺は奥歯を噛み締めながら、こんな姿のシエルちゃんを他の奴らに見られないよう、自分のローブを脱いでシエルちゃんの胸元にそっとかけた。
「うわっ!?なんだこれ!!」
「また喧嘩か?」
「管理事務員呼んで来た方がよさそうだな……」
「いや、それより看護師が先じゃないか?」
そんな会話に、ベッドから降りてドアの方へ向かう。
すると、運よく同じ階の仲の良い奴らが目に入った。
「えっ、アラン!?」
「まさかこれ、アランがやったのか!?」
皆、目を丸くして俺を見る。
まだ迷いは拭い去れない中、俺は眉をひそめて口を開けた。




