裂かれた大地9
その生徒は、薄く目を開けて俺を見た瞬間、「……よか……った……」と消えそうな声で言って、意識を失ったかのようにゆっくりと目を閉じた。
「おい!大丈夫か!?」
駆け寄り、すぐに回復魔法をかける。
ぽうっと光が手からあふれるのを確認しながら、もう片方の手で急いで心臓の鼓動を確かめた。
「一体、何があったんや!」
その時、部屋の奥から微かな声が聞こえてきた。
「う……」
弱々しい声に誘われ、回復魔法を掛けながら部屋を見渡すと、そこには、青黒い顔色をした3人の生徒が横たわっていた。
「……ホンマかいな……」
なんや、この状況は……
一目で全員重症やと分かった俺は、とりあえず、すぐ近くにいるもう一人の生徒に回復魔法をかける。
最近、気が荒い奴が多い。
戦場に送られる前にやりたい放題やろうとする奴が増えていて、教室でもトラブルが絶えない状況が続いている。
まぁ、普通に考えたら魔法でケンカでもしたんやろう。
でも……
「こんな重症者4人を俺一人でなんて無理や!……おい!誰か!来てくれ!!」
開けっ放しのドアに向かって叫んでみたものの、誰も来る気配はない。
この場を離れて呼びに行く手もあるけど、1秒でも遅いと命取りになりかねない。
全員にある程度回復を施してから、助けを呼びに行く方が賢明なんやろう。
入口すぐの通路に倒れていた二人は、顔色がほんの少しマシになった。
すぐに奥で倒れている二人の元に向かい、腰を下ろして手をかざす。
「俺が来ーへんかったら、絶対こいつら死んでたやん」
机にもたれ掛かっていた奴は、頭から血を流している。
その様子に、やっぱりケンカが原因なんやろうと確信した。
その時、ふとこの目に見た事のない謎の物体が見えて、目をパチクリさせた。
「なんや、これ……」
それは、目の前の男の首に巻き付く魔力だった。
首輪のような形をしたこの魔力の色をよく見ると、あの特別講師のもののように見える。
俺は、魔力を視覚で見れるだけではなく、触れた魔力の性質もだいたい分かる。
だから、その魔力に指先を当ててみた。
すると、時限爆弾のような性質が感じ取れた。
何かが引き金になれば、自爆するような恐ろしい代物に思えた。
目の端に同じような魔力の塊が映って首を振ると、他の奴らにも同じような首輪が付けられていた。
「これもケンカのせいか……?いや、でもこの魔力はあの講師のものっぽいし……。
ってか、俺、シエルちゃんの魔力を感じたから確かめようとしただけやのに、なんで俺はこんな事してんねや!
シエルちゃんがこの部屋に居てるんかと思ってたけど、全然ちゃうし。
もしかして外を歩いてただけなんかもしれんなぁ……。男子寮の横にある花畑が好きみたいやし……」
そう呟きながら、治癒魔法を使いつつ、もう一度魔力に意識を集中させた。
すると、シエルちゃんの魔力がとても濃く感じられた。
その感覚は、まるで同じ部屋に居る時のような感覚で、思わず目を見開いてしまった。
「……っ!!」
俺の感覚が言ってる。
背中側に……シエルちゃんが居るって。
でも、背中側にあるのはベッドだけのはずで――――
恐ろしい想像が一瞬流れて、恐々《こわごわ》と振り返る。
間違いであって欲しい。
そう願う俺の目に映ったのは、胸元が大きくはだけ、中の肌着は破られ、目を閉じ横たわっているシエルちゃんだった。
「……そ……やろ……?」




