裂かれた大地8
戦争前日
―ジョウガサキ・アラン目線―
いつものように男子寮の廊下を歩いていると、なぜかシエルちゃんらしき魔力を感じた。
魔力に意識を集中させると、さっき通り過ぎた部屋からシエルちゃんの魔力が強く感じられた。
「なんでや?」
訳が分からず首を傾げる。
シエルちゃんの魔力が強く感じる部屋の前まで歩いていき、扉の確認用の小さな窓を覗く。部屋の中は明るい。
この部屋の主は、部屋が同じ階なだけで話した事はない。
朝、挨拶をしても無視するような、いけ好かない奴や。
あんな奴とシエルちゃんに面識が……?
しかも規約違反をしてまで男子寮に遊びに来るなんて考えられへん。
そんなタイプちゃうし、来るなら絶対俺の所やろ。1番仲ええんやし。
そう思うんやけど、なぜか俺の能力がここで間違いないと言っている。
「どうなってんねん」
最近、みんなの様子がおかしい。
やから今なら何が起きても不思議ちゃう。
そんな状況に、不安しか沸かない。
ゴクリと唾を飲み込み、ただの気のせいであってほしいと願いながら、ノックをした。
「同じ階のDクラスのジョウガサキ・アランや。ちょっと確認したい事があるんやけど」
でも、返って来たのは静けさだけ。
念のため暫く待ってみたけど、なんの反応もない。
「誰もおらんのか?」
声をかけても、やはり反応はない。
「なんや。電気消し忘れか?」
そう呟いた時、「……け……て……」という男性の苦しそうな声が聞こえた。
「えっ……!?」
いま、『助けて』って……
信じられない気持ちで、ドアに耳を当ててみると、「た……すけ……て……」と、確かに助けを求める声が聞こえた。
何が起きているか分からないけど、助けを求める声に俺はすぐにドアノブを回した。
「悪い、入るで!」
でも、鍵がかかっていて開かない。
魔法で鍵を開けよう試みても、コントロールがまだ未熟な俺には開けれない。
「どうしたらええんや。……ここは1階やし、外から窓を割って入るか?」
いや、意外と遠回りやんな。ってか割っていいんかも分からん。
「俺、こういう繊細な魔法、めっちゃ苦手やねんなぁ」
そう独り言を言いながら、もう1度ドアノブの上に手をかざし、鍵を回すイメージをする。
すると、今度はカチャンと小さな音がした。
「……開いた」
ホンマかいな。
前までやったら、こんな魔法なんて絶対出来へんかったのに。
俺の知らん間に、目に見えへんコントロール力ってやつが上達してたんかもしれん。
そんな事を考えながらドアを開けると――
すぐに、血の気が引いたような顔で倒れている生徒の姿が目に飛び込んできた。




