裂かれた大地4
「大丈夫だよ。意外と余裕かも?」
「えっ……?」
余裕……?
「途中から、やる事が実技と変わらない感じに思えて来て……、そう思ったら意外と平気になって来ちゃって」
ははっと笑うメイに、驚きを隠せない。
実技と変わらない?そんなわけ……
「アランの強力な壁のお陰なんだろうけど、こっちまでは一切攻撃も飛んでこないし、前もよく見えもしないし、ただ長時間ずっと壁を作ってるだけって感じ。暇だから、ずっとネリーシャと喋りながら壁作ってるよ」
何……それ。
メイの話で、上空と地上では全く違うんだと知った。
メイやアラン達はとても安全そうで良かったと思う反面、どうしようもない不満みたいなものもを感じてしまう。
「空側はどう?」
「えっ!?」
「時々気になって上を見上げるんだけど、私視力悪いのに遠くて小さいし、逆光とかもあってよく見えなくて」
そう聞かれて、こちら側の攻撃に当たって、苦し気な顔で落ちて行ったリヴァーヴァル帝国の人間や、傷付いた仲間の姿を思い出す。
「……こっちは……全然、余裕では……無いかな……」
自分の眉頭が吊り上げられ、悲しみから視線を落としてしまう。
「そうなんだ……。やっぱり上空は人が少ないからなのかな……。あっ!でも、そんなシエルに朗報だよ!」
「朗報……?」
「そう!このままいけばNIHONが圧勝するって言われたよ!」
「え?そうなの!?」
「うん!」
その言葉に、少し心が明るくなった気がした。
初めての戦争で、今がどういう状況なのかなんて判断出来ない。
でも、確かにド素人の私から見ても、NIHONが押しているような感じはしていた。
と言う事は、その言葉は本当なのかもしれない。
「さっき指揮官がそう話してたし」
「そうなんだ……」
「早くこんな事を終わらせて、いつもの生活に戻りたいね」
「うん……」
本当に……
また、いつものベンチでメイの恋の妄想に付き合わされながらクレープを食べたり、ルイーゼの部屋で押し掛けるようにしてパジャマパーティーしたり……
そんな、何気ない幸せに溢れた日常に戻りたい。
それに……
早くディオンと仲直りをしたい……!
ディオン……
あの男の部屋で姿を消してから、一度も姿を見なくなってしまった。
前に『助けてやる』って言ってくれたけど、あの感じだと、もう助けには来てくれないんだろう。
どちらにしても、ディオンが戦地に来てしまったら国の暗黙のルールに反することになるから、これでよかったのかもしれないけど……
魔力を目視で見える人は限りなく少ないらしいけど、感じ取れる人は意外と多い。それは魔法自衛隊も同じ。
そのせいでディオンは名乗らなくても、、一部の魔法使いには遠くからでもディオンだと分かってしまう。会った事がある人限定だけど。
もしディオンが一瞬でもこの戦地に現れたら、こんなに沢山の魔法使いがいる中でディオンの存在が誰にもバレないなんて――完全に不可能。
だから……これで良かったんだ。
そう納得しようとしても、心が追い付かない。
頭では分かっているのに、心の中ではずっとディオンに助けを求めてしまっている。
何を期待しているの?情けない……
もう、自分たちでやるしかないじゃない!
特に私は先頭。
重大な立ち位置。
メイを含む後方の人たちは、私たち前方の動きにかかっていると言っても過言じゃないのに……!
そう思った瞬間、私の中で何かが固まった気がした。




