裂かれた大地2
その瞬間、私の心臓は酷く乱れ打ち始めた。
「……っ」
主犯格以外の3人はとっくに来ていた。
でも主犯格だけは来ないから、もしかしてと思っていたけど……生きてたんだ……
「はぁ……はぁ……」
駄目だ。
他の人たちはまだ大丈夫だったのに、あの人だけは……
目にするだけで体の芯が震えてくる。
自分の足を割ってほくそ笑む主犯格の映像が、鮮明にフラッシュバックして頭を強く抱えた。
「シエル、大丈夫?顔が真っ青よ」
呼吸が乱れて来て胸を押さえると、メイは心配そうに覗き込んだ。
「うっ……」
気持ち悪いっ。
胸の奥から込み上げてくる不快感に、慌てて口に手を当てる。
「大丈夫!?」
その言葉に答える余裕もなく、息を整えようとすると私に、メイがさらに問いかけて来た。
「講師呼んでこうか?それか治癒魔法得意な人呼んでこようか?」
でも私はメイの言葉にブンブンと首を振った。
あの主犯格に、自分の存在を気付かれたくなかったから……
騒ぐと、こちらに目が向くかもしれない。
そんな事を想像するだけで……身が凍り付きそうになる。
メイの温かい手が私の背中をさする。
すると少しずつ落ち着きを取り戻していくのが分かった。
「あり……がとう……メイ……」
そう言うと、主犯格がいる方からまた大声が耳に飛び込んで来る。
「俺は怪我人だぞ!なのに戦場に連れて行くなんて頭沸いてんのかよ!!」
「うるさい!ほとんど治ってるだろ!それにそれは、お前らが魔法で喧嘩したせいだろうが!帰還したら速攻で塔入りだからな!」
聞きたくもないのに、そんな会話が耳に入って来た。
……えっ?……喧嘩?
昨日の事は喧嘩という事になってるの?
確かに、さっき見たくもないのに一瞬目にしてしまった主犯格は、頬にガーゼのようなものが当てられていた。
多分、私は男子たちを助けようとした時に意識を失ったんだと思う。
なのに、あの瀕死状態だった彼らが、今は全員ここに立っている。
それは――あの場にいた人以外の誰かが助けたという証拠だろう。
襲おうとした人達が、あんな気を遣うように私にローブを掛けて私を部屋に戻すなんて考えにくい。
だから、この場でローブを着ていない男子がいたら、その人が何かを知っているはずだと予想していた。
……なのに、今ここにいる生徒たちは全員、ちゃんとローブを着ている。
あと、もう一つ気になることがある。
昨日、あそこにいた男子たち全員の首についている首輪だ。
精神的に辛くて、一瞬しか見ていないけど、あれは間違いなく魔法で作られたものだった。
独自に作り出した、首を守るための防御魔法とかなんだろうか。
そんな事を考えていると、突然、学園長の声がこのグランドに響いた。
「生徒諸君、おはよう」
その声に呼ばれるように、宙に浮かんでいる学園長を見上げた。
「秋晴れで、とても気持ちのいい天気だね。昨夜はちゃんと寝れたかい?」
そんな言葉に何人かヤジを飛ばしている。
「ふむ……。一部を除けば、絶望、恐怖、悲しみ……様々《さまざま》な負の感情を描いているように見える。
だからこそ、出発前に1つ話をさせて欲しい。
今日という日は、NIHONにとって、そして生徒諸君一人一人にとって特別な日になるだろう。
これから君たちはNIHONの未来のために戦場へ行く。これは誇りである。
誇りを胸に、勝利を信じてどうか最後まで戦い抜いてほしい。どんな厳しい状況でも、希望や勇気を持ち続ければ勝利の道は必ず開かれる。……無事、君たちが帰還してくる日を楽しみにしている。以上」
そう言うと、学園長は空に手をかざした。
続いて講師や管理事務員達もグランドの上空に手を伸ばす。
「行ってきなさい。誇り高き生徒達よ」
すると、ブゥンと不気味な音が鳴って、空に大きな虹色の丸い輪っかが現れた。
その瞬間、戦場に連れて行かれるという恐怖に一気に襲われ、思わずメイの手を取った。
メイの手は汗がびっしょりで、小刻みに手が震えていた。
「メイ……」
「シエル……」
メイの瞳は涙でいっぱいになっていて、今にも泣きそうだった。
自分も同じ恐怖を感じる中、少しでも安心させたい気持ちで冷たく震える手を強く握る。
すると――その輪が一気に地面まで降りて来て、私たちを飲み込んだ。




