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【大賞受賞作】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?~あなたがくれた幸せの呪い~  作者: 花澄そう


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213/283

裂かれた大地2


その瞬間、私の心臓はひどく乱れ打ち始めた。


「……っ」


主犯格以外の3人はとっくに来ていた。

でも主犯格だけは来ないから、もしかしてと思っていたけど……生きてたんだ……


「はぁ……はぁ……」


駄目だ。

他の人たちはまだ大丈夫だったのに、あの人だけは……

目にするだけで体の芯が震えてくる。



自分の足を割ってほくそ笑む主犯格の映像が、鮮明にフラッシュバックして頭を強く抱えた。


「シエル、大丈夫?顔が真っ青よ」

呼吸が乱れて来て胸を押さえると、メイは心配そうに覗き込んだ。


「うっ……」

気持ち悪いっ。


胸の奥から込み上げてくる不快感に、慌てて口に手を当てる。


「大丈夫!?」

その言葉に答える余裕もなく、息を整えようとすると私に、メイがさらに問いかけて来た。


「講師呼んでこうか?それか治癒魔法得意な人呼んでこようか?」


でも私はメイの言葉にブンブンと首を振った。



あの主犯格に、自分の存在を気付かれたくなかったから……

騒ぐと、こちらに目が向くかもしれない。

そんな事を想像するだけで……身が凍り付きそうになる。



メイの温かい手が私の背中をさする。

すると少しずつ落ち着きを取り戻していくのが分かった。


「あり……がとう……メイ……」

そう言うと、主犯格がいる方からまた大声が耳に飛び込んで来る。


「俺は怪我けが人だぞ!なのに戦場に連れて行くなんて頭沸いてんのかよ!!」

「うるさい!ほとんど治ってるだろ!それにそれは、お前らが魔法で喧嘩ケンカしたせいだろうが!帰還したら速攻で塔入りだからな!」

聞きたくもないのに、そんな会話が耳に入って来た。


……えっ?……喧嘩ケンカ

昨日の事は喧嘩ケンカという事になってるの?


確かに、さっき見たくもないのに一瞬目にしてしまった主犯格は、ほほにガーゼのようなものが当てられていた。



多分、私は男子たちを助けようとした時に意識を失ったんだと思う。


なのに、あの瀕死状態だった彼らが、今は全員ここに立っている。

それは――あの場にいた人以外の誰かが助けたという証拠だろう。


襲おうとした人達が、あんな気を遣うように私にローブを掛けて私を部屋に戻すなんて考えにくい。

だから、この場でローブを着ていない男子がいたら、その人が何かを知っているはずだと予想していた。


……なのに、今ここにいる生徒たちは全員、ちゃんとローブを着ている。



あと、もう一つ気になることがある。

昨日、あそこにいた男子たち全員の首についている首輪だ。


精神的に辛くて、一瞬しか見ていないけど、あれは間違いなく魔法で作られたものだった。

独自に作り出した、首を守るための防御魔法とかなんだろうか。



そんな事を考えていると、突然、学園長の声がこのグランドに響いた。

「生徒諸君、おはよう」


その声に呼ばれるように、宙に浮かんでいる学園長を見上げた。



「秋晴れで、とても気持ちのいい天気だね。昨夜はちゃんと寝れたかい?」

そんな言葉に何人かヤジを飛ばしている。


「ふむ……。一部を除けば、絶望、恐怖、悲しみ……様々《さまざま》なの感情を描いているように見える。

だからこそ、出発前に1つ話をさせて欲しい。

今日という日は、NIHONにとって、そして生徒諸君一人一人にとって特別な日になるだろう。

これから君たちはNIHONの未来のために戦場へ行く。これはほこりである。

誇りを胸に、勝利を信じてどうか最後まで戦い抜いてほしい。どんな厳しい状況でも、希望や勇気を持ち続ければ勝利の道は必ず開かれる。……無事、君たちが帰還してくる日を楽しみにしている。以上」


そう言うと、学園長は空に手をかざした。

続いて講師や管理事務員達もグランドの上空に手を伸ばす。


「行ってきなさい。誇り高き生徒達よ」


すると、ブゥンと不気味な音が鳴って、空に大きな虹色の丸い輪っかが現れた。


その瞬間、戦場に連れて行かれるという恐怖に一気に襲われ、思わずメイの手を取った。

メイの手は汗がびっしょりで、小刻みに手が震えていた。


「メイ……」

「シエル……」


メイの瞳は涙でいっぱいになっていて、今にも泣きそうだった。

自分も同じ恐怖を感じる中、少しでも安心させたい気持ちで冷たく震える手を強く握る。



すると――その輪が一気に地面まで降りて来て、私たちを飲み込んだ。

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