裂かれた大地1
ここまでの相関図
戦地出発当日――
普段なら朝食を取っている時間に、学園長が指定した集合場所、グラウンドへと向かう。
その足取りは、酷く重い。
結局、あの後の事は思い出せず、あの男子たちは生きているのか死んでいるのかも分からない。
心に付いた大きな傷と、これから訪れることへの恐怖を抱きながらグランドに着くと、すでに大勢の生徒が集まっていた。
どこかから熱い視線を感じて振り向くと、襲ってきた男たちが私を見つめていた。
その事にギクっと胸を鳴らすと、彼らは申し訳なさそうに顔を背けた。
「生きてたんだ……」
ホッとするような、でも、それだけじゃない複雑な感情が胸を締め付ける。
彼らの顔を見たら、朝みたいに息が詰まるかと思っていたけど……
意外とそうでもないようだ。
「シエル……」
そう呼ばれて声元を探すと、不安げな目で私を見るメイが映った。
「メイ」
私はすぐにメイの元へ駆けつけると、メイの顔には深いくまができていて、寝ていないことがすぐに分かった。
大丈夫?なんて簡単には言えない。
みんな不安を抱えていて、誰もが大丈夫なんかじゃないから。
だから私はそんな言葉の代わりに、痛みを分かち合うような気持ちで、そっとメイの手を握った。
お互い無言のまま、その温もりだけを感じる。
メイの肩に頭を預けながら、見上げた空は、今日も快晴だった。
戦地に行くなんて嘘みたいに静かで穏やかな朝の空に、なんとも言えない気持ちが溢れて行く。
今朝、クリフオジサンにラブを預けてきた。
予定通りだったけれど、ラブと長い間離れるのは不安で、何よりとても寂しい。
それにルイーゼ達とも……
そんなことを考えていた時、ふと、今まで疑問に思わなかったことが頭をよぎった。
「あれ?」
「どうしたの?」
「こんなの出発前にする話題じゃないんだろうけど」
「うん」
「上級クラス生だけ、特別野外活動で長期学園から不在になるって下級生に伝えられてるよね。でも、例えば私が戦争で死んじゃったら、関わりのあった下級クラス生たち、変に思わないのかな?」
私の質問に、メイはとんでもない事を当たり前のように言ってのけた。
「多分、記憶操作するんでしょうね」
「えっ……!?」
「私たちなんて、この世に居なかった事にするんだよ。きっと……」
「……まさか、そんな事をするわけ……」
「するでしょ。戦闘員になりたかったわけでもないのに、強制的に戦地に送り出す組織なんだから」
「確かに……そうだけど。で、でも……」
「だから前に書かしたんでしょ。
…………仲のいい友人、関わりのある友人の名前を…………」
その瞬間、宣戦布告として隕石が落とされた少し後に、授業の一環として書かされたアンケート用紙のことを思い出した。
今の今まで、深く考えていなかったけど、言われてみればアンケートにはそういう意図があったのかもしれない。
そう考えると、ゾッとして言葉が出なくなった。
「離せ!俺はぜってー行かねぇ!!」
その大声に反応して目をやると、講師たちに無理やり引きずられるようにしてグラウンドに入ってくる男子生徒たちが目に入った。
さっきから、管理事務員に無理やりグラウンドへ連れて来られる生徒を何人も見ていた。
泣きじゃくる生徒ばかりだったが、今回は大暴れしているようだ。
目を凝らすと、その中の1人が私を襲ってきた主犯格の男子だと分かった。




