私、死にたくない……30
気がつくと、私は起き上がるのすら困難だった上半身を無理やり起こし、ベッドの横に立っているディオンの腕を抱きしめていた。
「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を整えようとしながら、ふと視線を上げると、ディオンが集めていた魔力は消えていた。
部屋が、突然深い沈黙に覆われる。
「もう……知らねぇ」
ディオンはそう呟くと、拳を握りしめた。
そして歯ぎしりのような音を残し、静かに部屋から姿を消した。
ディオンが消えた場所を見つめながら、私は呆然としてしまう。
そして凍り付いていた空気から解放されたような感じがしたのも束の間、目をやると、床でうずくまっている男たちはもうピクリとも動いていない。
もし、まだ彼らが生きているのなら、1分1秒の猶予も許されないほどの危険な状態だろう。
ディオンは、間違いなく私のために怒ってくれていた。
この人達は、私に酷い事をしようとしていた。
もし、ディオンが助けてくれていなかったら……今頃、私は……
そんな想像をするだけで、酷い吐き気が込み上がってくる。
でも……私はこの人達を――
「助けないと……」
そうしないと、ディオンが人殺しになってしまうから。
絶対、ディオンに人殺しになんてさせない!
前にアランに攻撃を仕掛けた時、私は『人殺しなんかにならないで』と言った。
あの時、何をいくら言っても反応しなかったディオンが、やっと反応を示したのを覚えている。
ディオンの幼少期は『殺人鬼呼ばわり』され、楽しいなんて無縁な学園生活だったと言っていた。
もしかして、『人殺し』という言葉に、トラウマのようなものがあるのかもしれない。
だから、ディオンを騙す事でのし上がったリヴァーバル帝国の王子も、呪いを掛けられるだけで殺されなかったんじゃないだろうか?
全身に重りでもついているんじゃないかと思うような体を動かし、一番近くに倒れている男に手をかざす。
でも、頭がふらついて、うまく魔力が集まらない。
「はぁ……はぁ……」
もっと……もっと集中しないと。
コントロールできない体と同様に、魔力も思い通りにならないのかもしれない。
そう思いながらも必死に魔力を集めていると、ようやく治癒魔法が発動した。
良かった。
そう思った瞬間、意識が突然ブツっと途切れた――――




