私、死にたくない……26
「……覚えていたんだね。その質問」
その場でゆっくりと立ち上がると、悲しそうな笑みを浮かべた。
「大した事はないんだがね」
と言うと、エルバードは近くにあったベンチにゆっくりと腰掛け、口を開いた。
「……ワシはここに入れられて、もうすぐ80年になる。
入園してしばらくの間は、1年でも早く卒業しようと頑張っていた。けど、才能がなくてね……
そうこうしてるうちに両親が他界して……一気に人生の目標を失ってしまった……」
小さな目を閉じると、遠い記憶を思い出すかのように空を見上げた。
その姿に、私はエルバードが泣いているのではないかと心配になり、胸が痛んだ。
「……外の世界に興味がないわけじゃない。でも、身寄りもなく知人もいない外の世界より、こっちの方がマシなんだと思っているんだよ。それが、ワシがずっとここにいる理由だよ」
エルバードの言葉には、諦めと寂しさが滲んでいるように思えた。
だから私は何も言えず、ただその言葉を受け止めるしかなかった。
エルバードの長い人生の中で抱えてきた苦悩が、胸の奥に重く響いた。
…………
……
授業終了のチャイムが鳴り響き、エルバードと別れた私は、教室へと向かう細い裏道を歩きながら、頭の中でモヤモヤと思いを巡らせていた。
やっぱり、どう考えてもエルバードが不憫でならない。
コントロールが利かないせいで、意図せず誰かを魔法で傷つけてしまうことや、まれに起こる魔力の暴走という懸念点さえ解消できれば、エルバードのように学園から永遠と出れない人たちや、毎月のように泣き叫びながら両親と引き離される子供たちを無くせるのかもしれないのに……
昔から考えているけど、そんな素晴らしい解決策なんて思いつかない。
そんなことを考えながら、私はふとシャツの上からネックレスに触れた時、ある事をひらめいた。
……あれ?
もしかして、これで、助かるんじゃないの?
私が前まで付けていた、魔力を制御する魔道具があれば、学園に囚われずに済むんじゃ……っ!!
でも、それって人の魂を使うんだよね?
それを、世界中の魔法学校の生徒全員に行きわたらせるなんて、そんなの本末転倒な気がする。結局誰かが犠牲になるしか無いのだから。
そんな事を考えながら歩いていた時――
「今だ」
「はい!」
そんな男性の声が聞こえた。
振り返ろうとした瞬間、突然目の前がグルグルと回転しだした。
急に立っていられないくらいのめまいに襲われ、私はその場に膝をついた。
視界が一気に暗くなり、固い地面に倒れ込む感覚が肩や頭に伝わる。
全身から力が抜け、体は動かない。
ひどい脱力感に、私は目を開けることすらできない。
その中で、「よし、すぐに運べ。急げ!」という、男性の声と複数人の足音がすぐ近くで聞こえてきた。




