私、死にたくない……25
でも、いつまで待ってもディオンは現れなかった。
あんなに毎日会いに来てくれていたのに今日は一体どうしたのだろう。
そう思いながら、静かに夜は更けていった。
戦争まであと1日――
目を開けると保健室の天井が映った。
どうしてここにいるのかと驚いた私は、ものの数秒で訓練中に倒れた事を思い出す。
そして、保険室の看護師に『栄養不足と寝不足だ』と指摘されたことも。
残り少ない人生を、後悔のないように生きると決めたばかりなのに……
心は前を向いているはずなのに、体がついていかない。
その事に、やるせない気持ちが込み上げてくる。
「ラブを迎えに行かないと……」
そう呟き、ゆっくりと体を起こす。
ぼんやりした頭で仕切りの白いカーテンを開けると、左右に続くカーテンの壁が現れた。
私の知ってる保健室の風景とは全く違う光景に、一瞬目を点にすると、保健室の看護師が小走りしてきた。
「あら起きたのね。体は大丈夫?」
「はい。それよりこれは……?」
私がカーテンの壁に目をやると、看護師は苦笑いを浮かべて言った。
「ああー。みんな初めはビックリするよね。今の時期は倒れる人も多いから、ベッドをいっぱい入れたらこうなっちゃって……」
「そうなんですね……」
精神的にも、肉体的にも参っているのは私だけじゃないようだ。
…………
……
保健室を後にした私は、まだ訓練中の時間だということに気付き、グランドに足を向けた。
でも、足がひどく重い。
昨日はディオンを待っていたせいでほとんど寝れなかったし、魔力も完全には回復していない。
そんな中での厳しい訓練は、とても辛い。
「はぁー……」
自然とため息が漏れた。
少しくらいなら、気分転換してもいいよね。
そう自分に言い聞かせて足を向けたのは、お気に入りの花畑だった。
そこは、もうすぐ冬が訪れるなんて信じられないほど、赤やピンクの明るい花々が咲き誇っている。
最近、心の癒しを強く求めているからか、毎日のように来てしまっている。
こんな素敵な花畑を作ってくれたエルバードには本当に感謝しかない。
「あれ?タチバナちゃん」
そう呼ばれて見ると、花畑の中から土まみれのエルバードが、ひょっこりと顔を出した。
「エ、エルバード!?あれ?授業はどうしたんですか?」
まだ授業中なのに……って、自分もだけど。
「抜け出して来たんだよ」
「えっ!?抜け出……大丈夫なんですか!?」
「うちは、タチバナちゃんの所と違って一番人数の多いチームだからね。一人抜けた所で分からないんだよ」
でも、もし抜け出したなんて事がバレたら大変な事になるのでは?と思いながらも、余裕そうなエルバードの様子に、意外な一面を見た気がした。
「そうなんですね……」
せっせと雑草を抜くエルバードの横顔を見て、エルバードが少し痩せたことに気付いた。
人の事をなんて気にする余裕が無くて、同じクラスなのに全く気付かなかった。
参戦を言い渡される前後のエルバードの言動を思い出すと、エルバードが学園生徒の戦争参戦を知っていたんだと思う。
ひょっとすると、彼自身が戦争経験者なのかもしれない。
そう思うと、昔に聞いた言葉に矛盾を感じてくる。
「前に、なんで卒業したいと思わないのかって聞いた事がありましたよね」
10歳にも満たない頃の私とエルバードは、そんな会話をした。
戦争の事を知っていたんだったら、すぐにでも卒業を目指すのが普通なのではないだろうか。
またいつ勃発するのか分からないのだから。
なのに、エルバードはこう言った。
『それは……タチバナちゃんがもう少し大きくなったら教えようかな』
「今なら教えてもらえますか?どうしてエルバードは卒業したいと思わないのかを」
元々、卒業したいと思わないという、エルバードが理解出来なかった。
でも、戦争の事が聞いて、さらに訳が分からなくなった……




