私、死にたくない……22
出来るだけ後悔は残さない。
ついに出陣まで残り3日となった私は、強い決意を胸に、メイの部屋の前でメイの帰宅を待っていた。
メイの部屋は4階で、階段のすぐ横の部屋だ。
階段を上がって来る足音が聞こえるたびに胸をドキドキとさせた。
近付いてくる足音に緊張しては、メイではない姿にホッとするような、でも残念なような気持ちになる。
そんな事を何十回と繰り返して必要のない疲れを感じて来た頃、再び階段を上がる足音が私の耳に入って来た。
今回もメイじゃないんだろう、そう思った時、とても聞き覚えのある声が耳に飛び込んで来た。
メイだ……っ!
そう分かった瞬間、私の瞳に、ちょうど階段を登り切ったメイの姿が映った。
「メイ……」
メイは友人と帰宅してきたようで、私の声が届くと、笑顔のまま隣を歩く友人から私にゆっくりと視線を移した。
そして私と目が合った瞬間、笑みがすっと消えた。
そんな様子に凄く胸が痛んだけど、勇気を絞り出すように切り出す。
「メイ。話があるんだけど……」
メイから明らかに冷たい目を向けられ、眉が寄ってしまう。
「前に、もう何も聞かないって言ったよね?」
メイとは絶交された後、一度だけちゃんと話をしている。
でも途中で、やっぱりメイには言ってはいけない話のような気がして来て、結局謝る事しか出来なかった。
「メイ!お願い、聞いて!」
「聞かないって言ってるじゃん!しつこい!」
その後からは、全部こんな感じで跳ね返されて、まともな話すらさせてもらえなくなってしまった。全部中途半端だった私のせいだ。
「メイ……」
「どうせまた謝るだけなんでしょ?もう、そんなの要らないから!」
と言うと、友人の方を向いた。
「ネリーシャ、私やっぱり帰らない。また明日ね」
「う、うん……」
心配そうな友人に手の平を見せたメイは、クルっ踵を返した。
私は慌ててそんなメイに駆け寄って、ぐっと腕を掴む。
「待って!」
「離して!」
「全部言うからお願い!メイに聞いて欲しいの!」
私に背を向けていたメイは、私の言葉を聞いた瞬間、ピタリと足を止めた。
「……本当に?」
低い声で背中越しにそう言って来るメイは、ゆっくりと振り返って私の心を探るような目で見て来た。
「……うん」
向けて来たメイの目の奥には、深い葛藤がにじみ出ている気がした。
…………
……
メイに続くように、メイの部屋に数歩足を踏み入れる。
バタンと扉を閉めてから、懐かしさを感じるメイの部屋を見回した。
半年ぶりに訪れるこの部屋は、相変わらず物や服で溢れていた。
玄関右手にある低めの棚の上には、帽子やマフラー、コートが乱雑に積まれている。
メイは、バッグを投げるように机の上に置いてローブをベッドに脱ぎ捨てると、私に背を向けたまま立ち止まった。
何も言わない様子から見て、私が話を切り出すのを待っているんだろう。
「……ごめん……」
そう言うと、メイは勢いよく振り返り、怒りの目でこちらを睨みつけて来た。
「何!?さっきのは嘘だったの!?また謝るだけ!?」
「違っ……」
「それなら今すぐ出てって!」
メイは、私の背後にあるドアを勢いよく指さした。
「違う!今回は謝るだけじゃない!メイに伝えたくて……だからそこでずっと待ってたの!メイ以外に聞かれたら……絶対に困る話だからっ!」
私の言葉に、メイは目を大きくした。
私は一度唾を飲みこんでから口を開けた。
「実は、私……」




