私、死にたくない……21
分かるでしょ。普通……
「お前が嫌と感じないのなら、別にいいんじゃねぇのか?
人は付き合うって宣言して、要らなくなったら別れるって宣言するよな」
「……うん」
「それの必要性はどこにあるんだ?」
確かに……。改めてそう聞かれると分からなくなる。
前世で、『結婚しましょう』と言ってくれたあの人は、付き合うとは宣言していなかった。
だから私は、前世今世を含めて付き合った経験は無い。
だから正直必要性を聞かれると、よく分からない……
「けじめみたいな感じもするけど、分からない……。私は誰とも付き合った事もないし。
でも、色々な付き合い始めがある中で、ちゃんとした告白とかで始まる付き合いの方が素敵だなって……思う。憧れっていうか……」
あっ、これだとただの私の意見になってるよね。
ディオンが聞きたいのは一般論だよね。
「憧れ……。ふぅん。お前の憧れる『ちゃんとした告白』ってどんなんなんだ?」
「えっ……」
そんな詳細な部分を聞いてくる?
「そ、それは……、言えない!」
なんか嫌。
だって、言ったら……絶対ロマンチストだって馬鹿にされてからかわれるに決まってる!
「んだよ。言えよ」
「嫌だよ。絶対……かっ、からかいそうだしっ」
「からかわねぇよ」
ディオンは、多分、と小さく言い足したと思うと、皮肉な笑みを浮かべた。
「ほらやっぱり……絶対笑うじゃん!」
私がずっと描いている理想や夢を、笑いのネタになんてされたくないけど……どうせ一生そんなの叶う事はないし、しつこいディオンからは逃れられないんだろう。
何より、私は下手すると余命数日かもしれないんだ。
そう思って、観念したような気分で口を開けた。
「き、綺麗な景色とかが見える場所で……お、お花を差し出されて……告白されるとか…………あああーー!!」
だんだん恥ずかしくなって、話の途中で顔を手で覆って叫んだ。
穴が有ったら入りたい気分の私を、やっぱりディオンは笑った。
「シエルのくせに贅沢だな……ククッ」
「う、うるさいわね。笑わないでって言ったのに!」
あれ……?
今日もだ……
ディオンが来るまでは、ずっと気分が沈んでいたのに、また浮上してる。
やっぱりディオンは凄いな。
いつもいつも、ディオンと一緒に居る時だけは、どんな酷い状態でも楽になってる気がする。まるで安息の地のようだ。
でも、これはどっからどう見ても、淡く脆い上での幸せだ。
現実を目にした途端、すぐにその脆さは一気に増して、見えない所まで沈んでいく。
幸せと感じた分、悲しさや淋しさを感じる。
そして、追い打ちのように酷い恐怖が私を襲うんだ。
瞬きするほどの一瞬の平穏。
それは、まるで誤魔化しのように感じていた。
今までは、それをただの逃げだと思ってた。
でも、そうじゃないのかもしれない。
どうせ同じ時間を過ごすなら、残り僅かかもしれない人生だからこそ、俯いてばかりじゃなくて――
こうして心が少しでも穏やかになる時間を、大切にする方がいい。
そう思えるようになった。
もし今、1つだけ願いを叶えてくれるとしたら、きっと私はこう願ったと思う。
ディオンと笑い合える時間が、
1秒でも長く続きますように……と。




