私、死にたくない……20
思わず、ディオンの手を掴む。
抵抗しようとする気持ちとは裏腹に、ディオンは再び唇を奪い、舌が侵入してくる。
絡み合う舌に、呼吸が乱れ、心臓が壊れそうなほど激しく鼓動してしまう。
ディオンの指が肌を伝い、胸の膨らみに触れた瞬間――
「ま、待って!」
私は目が覚めたようにディオンをドンと突き飛ばした。
胸元を隠すようにポンチョを握り締め、後ずさる。
「んだよ」
「いや、その……」
「足んねぇんだろ?」
ディオンは相変わらず自信満々に、薄ら笑みを浮かべながら私に迫ってくる。
「えっと……そうなんだけど……」
確かに足りない。
けど、こういうのでは返した事にはならないわけで……
あれ?でもディオンが望んでるんだから、返したことにはなるの?
頭が全然回らない。
睡眠不足のせいで、考えがぐるぐると絡まって、訳が分からなくなる。
気づけば、またディオンに壁際に追い詰められていた。
慌てて両手で手の壁を作り、必死に言った。
「待って!分かった!た、足りる!!足りるから!!」
少し間をおいて、クッと笑う声が耳に入る。
見上げると、顔を歪めて笑うディオンがいた。
「まさか、からかったの……?」
「どうだろうな?」
「絶対にからかったでしょ!」
「まぁ、半分本気で半分からかった感じかもな」
「えっ?」
「お前、返す返すってしつけーし」
「うっ。だって……」
「だってじゃねぇよ」
「ディオンは……私に色々してくれているのに、私は何もあげれてないじゃない。実は前から結構気にしてて……」
「お前は信じねぇかもしんねーけど、俺はお前から色々貰ってるつもりだ」
「え?」
ディオンに何か渡した記憶なんてないんだけど……
「クッソ長い時間生きて来ていたのに、今まで本当につまんねー人生を歩んでたんだなって思っちまうくらいの時間を、お前から貰ってる」
ディオンの目は、出会った時とは比べ物にならないほどに、目に光があるように見えた。
それは、この眩しい月夜のせいなのか……
「これからも、そんな時間をお前から貰い続けるつもりだ。だから……戦争なんかで殺させねぇよ」
ディオンは、大きな手を私の頭の上にポンと置いた。
そして髪をぐしゃぐしゃにした。
「ちょっと……っ!」
怒るつもりで見上げると、ディオンは驚くほど優しく微笑んでいた。
「だから、もう訳の分かんねーことで悩むな」
私は、大人しく「うん……」と返事した。
「ディオンが、それでいいって思ってるんだったら……」
ちゃんと理解はできなかったけど、ディオンが本当にそれでいいと思っているように見えたから………
「ん」
これでいいんだと思った。
ずっと抱えていた気持ちはとりあえず解決したけど――
「でも……、一つだけ言わせてほしい」
「ん?」
「こんな事、付き合ってない人とするのは本当は良くないと思う。だから……」
「なんで?」
ディオンの言葉に、ポンチョが片方の肩から落ちた。
「……えっ?なんでって……」




