私、死にたくない……18
柔らかな唇の感覚に、甘い電撃のようなものが走ったように感じた。
驚きで目が最大限に開いて、血が沸騰したかのように一気に体温が上昇していく。
次第に、ディオンの匂いが体の中をめぐってきて、眩暈までしそうになる。
ゆっくりと唇を離したディオンは、私を見つめる。
すると、「なんて顔してんだよ」と言って、フッと意地悪な顔で笑った。
どんな顔をしてるのか分からないけど、きっと酷い顔をしているのだろう。
そう思って慌てて両手で顔を隠した。
「な、な……なんでこんな事……っ!」
「返してぇんだろ?しかも涙もひいただろ」
確かに、涙もひいたけど……っ!!
「……だから、返してもらった」
「こんなんじゃ、全然足りないよ……」
大金を差し出しても、ずっとこき使われても足りないくらいなのに。
私の言葉に、ディオンは首を傾げて困ったように笑う。
「何?俺を煽ってんのか?」
ディオンはそう呟くと、私に影を落とし、再び綺麗な顔が私の視界を埋めてきた。
「えっ……」
今度は咄嗟に手で口を押さえる。
「な、何っ……!?」
「足りねぇんだろ?じゃあ、お前が足りると思うまでもらうまでだ」
口元を隠していた手をすくうように取られたと思うと、「邪魔だ」と言ってポイっと摘まみ落とされてしまう。
「あっ……」
重力と共に落ちた自分の手を見届けけるより先に、視界の端のディオンがぐっと近付く。
慌てて後ずさろうとすると、すぐに展望台の柱に背中が当たった。
もう後ろはない。
「待っ……心の準備が……」
あまりの近さに、心臓がバクバクと酷い音を立てている。
ディオンは、もう1歩も逃がさないと言わんばかりに、私の耳の横に手を突いて私を挟み込んだ。
「さっきしたばっかなのに、そんなのいらねぇだろ」
そうディオンは低い声で囁く。
さっきの不意打ちとは違い、今度は来ると分かっているキスに備え、緊張が体を駆け巡る。
「む、無理……かも……」
ディオンの迫力に耐えられなくなり、私はギュッと目をつむり、顔を伏せた。
「こっち向け」
ディオンに促され、自然と顎が上を向き、瞼も上がっていく。
今のディオンの感じからして、魔法なんて使っていないはずのに。
まるで魔法にかけられたかのように、私はディオンを見上げてしまう。
そして一度絡んだ視線が、もう離せなくなる。
ディオンは満足そうにフッと笑みを浮かべ、意地悪な顔をする。
ドキっとした瞬間、ディオンはさらに近付いて、息遣いが感じられる距離まで迫ってきた。
私の心臓は、爆発するんじゃないかと心配になるほど速く打ち続ける。
「ディ……」
視線が交錯すると、時間が止まったかのように感じた。
「……オン……」
名前を呼んだ瞬間、ディオンは微笑みながら、そっと唇を重ねてきた。
月明かりが2人の影を照らし、静かに重なり合う。
その瞬間、熱い感情が湧き上がるのを感じた。
「……んっ」
時折、熱い吐息が隙間から漏れて、そしてすぐにまた塞がれる。
唇がふやけてしまいそうな程、とても長い時間キスをしていたと思う。
「はぁ……」
強引なのに、ちゃんと私に合わせたような優しいキス。
この時間が、いつまでも永遠に続けばいいのにって、心の底から思った。
どんどん溢れて来る、好きという気持ち。
……好き……
もう、どうしようも無いほど、ディオンが好き……




