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【大賞受賞作】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?~あなたがくれた幸せの呪い~  作者: 花澄そう


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私、死にたくない……17


ディオンがサッと手をかざすと、白いもこもこの何かが現れ、それを私の肩にそっとかけてくれる。


じわりと温かさが伝わってくる。


それがふわふわのポンチョだと分かって驚いてしまう。


「馬鹿かよ。何月だと思ってんだ」

「あ、ありがとう……」


……嬉しい……

ポンチョで口元を覆うと、ディオンがふと私の髪を手に取った。


「髪色、やっと戻って来たな」

その動きに内心ドキッとしてしまう。


「うん……」


やっと半分くらい金色に戻っただろうか。

毎日の長時間の実技訓練がなければ、もっと早く回復したんだろうけど。



「また寝れねぇんだな」

その言葉に、私は罪悪感のようなものを感じて目を伏せた。


「日中は実技ばっかなんだろ?そんなので大丈夫かよ」


全然、大丈夫なんかじゃない。



残りの人生が僅かかもしれないと思うと、寝ようとしても全然寝れない。

食事だって喉を通らないし、少ししか食べられない日が続いている。



両親へのショック。


それに、あの戦争に強制的に駆り出されるという絶望。


しかも、前回は大多数の人たちが戦死した相手――

世界一の国、リヴァーバル帝国だなんて……



そんな相手なのに、私のチームは、どのチームよりも危険な最前線に送られることになってしまった。


なぜなら、私は、学園唯一の『上空チーム』だからだ。



チーム分けの時、どういうわけか私が飛べることがバレていて、上空を守るチームに任命されてしまった、


ちなみに、ローレンと同じチームだ。

知らなかったけど、ローレンも少しだけ飛べるらしい。


Aクラスから浮遊魔法を習うけど、実際に飛べるのはほんの数名しかいない。

だから、うちのチームは私とローレンを合わせてたった5人しかいない。


空を飛べる魔法使いは一握り。

それは生徒に限った事じゃない。


人数が少なすぎるせいで、学園生徒はサポートのような役目をになうはずだったのに、飛べる生徒だけは特別に最前線の配置となってしまったというわけだ。



まるで不運そのものが私の人生を支配しているみたいだ。


もう、人生最悪としか言いようがない。


私はきっと、今世もこの不運に殺されるに違いない。





『死』が怖いはずなのに、あの日、両親の姿を見た時から、心がまるで分離しているように感じる。

心の痛みさえ麻痺まひしてるみたいで、死への怖さもあまり感じなくなってしまった。


自分の事なのに、まるで他人事みたいに思えてしまう瞬間がよくある。


なのに完璧には他人になりきれなくて、ふと現実に戻されると、また悲しみと絶望に突き落とされる。


こんな感情の波を、私は最近、ずっと繰り返している気がする。


ディオンが、頭に手を伸ばしてくる。


「また眠くなる魔法でも使ってやろうか?」

だから、私はすかさず顔の前に手で壁を作った。



「……いい……。起きてたいの」

「んな、ひでぇクマ作ってまでして起きてる必要なんてねぇだろ」

ディオンの言葉にグっと眉がよる。


「こうやって……空を見上げるのも、あと少ししか出来ないかもしれないし……」


「なるほどな。やっぱそういう事か」

ディオンは大きなため息をつくと口を開けた。


「お前、俺の事信じてねぇんだな」

「えっ……」

「どうりで毎日、み垂れた顔ばっかしてるわけだ。どうにかしてやるって言っただろ」


「言ったけど……。でも、まだいい方法は見つかってないんでしょ?数日前にそう言ってたじゃん」

「確かに今のところ見つかってはねぇ」


死にたくない……怖い……

逃げれるなら逃げ出したい……


ディオンが大魔法使いだとしても、あと4日で解決策を見つけられるわけがない。



「でも、俺を信じろ。お前は死なねぇ」


なのに、そんな風に言われると――期待してしまう。



「なんでそんなの分かるのよ」

「俺が、殺させないからだ」


熱い眼差しが私を射抜く。


「最悪、かっさらってでも助けてやる。だからそんな顔すんな」


ディオンの手が私のほほに触れ、その温もりが心に染み込む。

しばられていた涙が、今にも溢れてきそうになる。


だから私は、その涙を呑むように、強く下唇をんだ。



「どうして……私にこんなに良くしてくれるの?」

呪いのせいだとしても、嬉しいと思ってしまう。

でも、私はここまでしてもらえるような人間じゃない。


「そんなにしてもらっても……私、何も返せないのに……」


メイから、人との関係は貸し借りじゃないと教わった。

でも、ディオンに関しては恩があまりにも大きすぎる。


命の危険がある夢の中にまで助けに来てくれた事。

バレたら退職どころではない資料室に入れてくれた事。

そして、今さっきのセリフだって……



「俺は、別にお前から何かを欲しくてやってるわけじゃねぇ」

「じゃあ、何?」

「……分かんねぇ」

ぶっきらぼうにそう言うと、ディオンは少し視線をそらしながら「でも……お前は何かを返さねぇと納得しないんだろうな」とボソっと呟いた。


その言葉に、一瞬考え込んだ。


こんなにしてもらっているのだから、何かを返すのが当然だと思う。

でも、ディオンは何かを欲しくてやっているわけじゃないと言う。

それなら、私はどうすればいい?

本当は、返せるものがあるのなら返したい所なんだけど……


そう考える私に、ディオンはため息をつき、突然私の腰に手を回してきた。


「……っ!」


驚いて顔を上げると、ディオンの綺麗な顔がすぐ目の前にあって、目を大きく見開いた。


腰をグッと引き寄せられ、鼻先がディオンの高い鼻に触れる。

その距離感に、鼓動が一気に速くなる。



「じゃあ、もらっとく」


ディオンのその言葉を理解するよりも早く、ディオンは私の唇を塞いできた。

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