私、死にたくない……16
その言葉に、脳内でモザイクがかかりそうな映像が流れ始め、頭が真っ白になる。
半分ほど灰になった私は、「寝相が」と後出しで言われた言葉に、やっと目の色が戻って来た。
ディオンがニヤリと意地悪そうに笑うのが目に入った瞬間、からかわれたと気づき、怒りが込み上げてきた。
「酷い!騙したのね!」
「俺は何も騙してなんてねぇよ。本当にお前の寝相が酷くて、何度蹴られたか分かんねぇ位だ」
「えっ……っ!?」
寝てる私、なんて事を!
「お前が勝手に変な勘違いしただけだろ?」
そう言われて思い返すと、確かに私がただ勘違いしただけかもしれないと思った。
でも、わざわざ誤解させるような言い方をしていたような……
「安心しろ。寝たお前をベッドに降ろそうとしたとき、お前が俺の服を掴んで離さねぇから、ダルいしそのまま一緒に寝ただけだ。お前が考えてるようなことは何もしてねぇよ」
「べ、別に私なにも考えてなんて……」
「ふぅん?」
「っていうか……は、早く前しめてよ。なんでそんな姿になってるのよ!」
私はディオンのシャツを指差してから顔を背ける。
「お前がやったんだろ」
「えっ!?」
「別に俺は脱いでない。お前が引っ付いて脱がして来たんだ」
ディオンの言葉に、私は心の中で盛大な悲鳴を上げた。
私が……引っ付く!?脱がす!?
しかも同じベッドでぇ――!?
どうなったらそうなるの!?
っていうか、そもそもなんでそんな寝るまでディオンと居たんだっけ……?
そう思って記憶を辿る。
すると……
「あっ……」
すぐに両親と子供が手を繋ぐあの姿が鮮明に思い出され、自分の顔が固まっていくのを感じた。
そうだ、私、昨日……
思い出した瞬間、崖から突き落とされるかのような絶望感に、目の色が無くなって行くような気がした。
「シエル」
心配そうなディオンの声が、真っ暗になった私の意識に響いた。
…………
……
ここ数日、何をする気にもなれず、教室にいてもぼんやりと時間を過ごすだけの日々が続いている。
授業の内容はまるで耳から抜けていくようで、何1つ覚えられない。
『実技授業』というより『軍隊訓練』そのものとしか思えない厳しい訓練も、ここのところまるで身が入らない。
そんなある日、再び緊急集合がかかり、上級クラスの生徒全員がグランドへ集められた。
ついに来るのか……
そんな不安を抱えながら、異様な胸騒ぎの中、運命の日が告げられる。
「さっそくだが、出発の日取りが決まった」
学園長がそう言った瞬間、空気が一気に重たくなったのを感じた。
「出発日は一週間後。場所は国境線という事になった。
今日から、最後の追い上げとして、現場指揮官として学園外の魔法使いがつく。それで本格的な戦闘を身に着けてもらう。時間はわずかしかないから、出来る限り吸収するよう。で……だ、今から特性毎にチーム分けをしてもらう。分けられたチーム毎に作戦会議に入ってくれ」
すぐに能力を測る試験が始まり、そこでチーム分けが行われた。
どう戦うか、どう動くか。
現場指揮官が魔法で駒を使って説明していたけど、やっぱり頭に入ってこない。
こんな状態じゃ駄目だと分かっている。
ラブのためにも、生き残らなきゃいけないのに……
そう分かっているのに、ただただ焦りが募るだけ。
戦争開始まで後4日――
「また展望台に居んのかよ」
見上げると、2つの月と一緒にディオンが浮かんでいた。
「ディオン……」
「あれ?今日、熊野郎は?」
ディオンは私の横にトンと降り立った。
「部屋で寝てるよ。昼間、木登りをしすぎて疲れちゃったみたい……」
「ふぅん」
ディオンとは特に約束をしているわけではないのに、毎日どこかの時間で必ず会うようになった。
思いのほか、ディオンは私のことを心配してくれているのかもしれない。
本人に聞いても、そんなことは絶対に認めないだろうけど。
じっと私の姿を見て来るディオンに不思議に思って目を向ける。
「寒くねぇのか。その恰好」
確かに、11月の夜にしては寒い恰好をしている。
厚手のワンピースだけど、本来ならコートを着てくるべきだった。
だけど、ぼんやりしてて、つい忘れてしまった。
最近こんなミスばかりだ。
注意力も散漫だし、こんな自分で本当に戦争で生き残れるのかと不安しかない。
「ちょっと寒いけど、大丈夫」
そう言うと、ディオンは口を歪めて舌打ちをした。




