私、死にたくない……15
目元をこすりながらそう呟くと、ディオンはため息をついた。
「今日見た記憶、消してやろうか?」
そう言われて、一瞬涙が止まった。
見上げると、真剣な目をしたディオンが私を見据えていた。
「え……?」
「見たくなかったんだろ?お前が望むなら……ここから消してやる」
そう言って、ディオンは私のこめかみを指でトントンとつつく。
苦しいし、記憶を消してもらえれば、私は楽になる。
でも、この記憶がなかったことにされるのは……なんだか違う気がした。
「ううん……。それは、嫌……」
私の言葉に、ディオンは再びため息を落とす。
「難儀だな。じゃあとりあえず寝ろ。どうせ昨日も寝てないんだろ」
突然、私はふわりとディオンに抱きしめられた。
すると次の瞬間、体がまるで包み込まれるような温もりに包まれ、力が抜けていった。
同時に強い眠気が襲ってきて、驚くほどに重くなった瞼を閉じると、私はすっと夢の中へと吸い込まれていった。
…………
……
「……んっ」
チチっと小鳥の声が聞こえ、瞼に朝の光が差し込んでくる。
いつもの、よくある朝――
でも、今日はなんだかすごく暖かい。
それに、枕もやけに硬いような……
そう思いながら目をゆっくり開けると、目と鼻の先にディオンの寝顔があった。
「わぁっ!」
思わず飛び起きた私に、ディオンが不機嫌そうに顔をしかめて目を開けた。
「んだよ。朝から煩ぇな」
無駄に肌色が多く映り込んでいる気がして、ふと視線を下げると、何故かディオンのシャツが全開で、素肌がむき出しになっているのが目に入った。
「きゃぁ!!」
私は大慌てて自分の目を覆う。
「えっ……な、何っ!?なんでそんな恰好……っていうか、まさか、一緒に寝てた!?」
私の中で酷い混乱が起こる。
「朝から質問ばっかだな」
そんなディオンの言葉とあくびが聞こえて、指の隙間からそっと状況を確認する。
布団が半分だけかかっていて、下半身は見えない。
一瞬、嫌な予感が脳裏をよぎったけど、布団をめくる勇気なんて無い。
まさか、私がディオンとそんな事……!?
昨夜何があったのか全く思い出せない私は、盛大にあたふたしながら頭を抱えた。
「なんだ、覚えてねぇのかよ」
ディオンが片方の口角をぐっと上げ、半身を起こしてこめかみに手を当て、とどめを刺すように言ってきた。
「お前って、意外と激しかったんだな」




