私、死にたくない……14
その女の子は、まるで日常のように『ママ』と呼びながらお母さんと手を握り、次に『パパ』と言って私のお父さんの手も取った。
何……?
えっ……?
両親は、かつて私に向けていたような優しい笑顔を、その子に向けている。
その光景を見た瞬間、胸がギュッと締めつけられるように苦しくなり、早くこの場から逃げ出したい気持ちがこみ上げた。
なのに、そんな思いとは裏腹に、ショックがあまりにも大きすぎて、足が地面に張り付いて動けない。
逃げられないのなら、せめて今見たことを無かったことにしたい。
そんな叶わぬ願いと止められない涙が、次々と溢れてくる。
私は咄嗟に、言いたいことがうまく言えなかった時のために書いてきた手紙で、顔を隠した。
「おい、行かないのか?って、何してんだよ」
「……いい……」
「は?いいって……なんでだよ。お前せっかく……」
両親とその子は私に背を向け、手を繋いだまま仲良く夕日に向かって小さくなっていく。
そんな様子に、私は、足元の地面の色を塗り替えていく。
「うっ……」
「えっ……!?お前泣いてんのか?」
……痛い。
目が、心が……潰れそうなほど痛いよ。
両親に挟まれ、手を繋いで歩くその3人の姿は、今の私には耐えられるようなものではなかった。
その姿は、私がずっと心から望んでいたこと。
それを当たり前のようにしているその小さな子供に、胸の奥から酷い嫉妬心が沸き起こった。
その子は、誰――?
私の両親なのに……
両親は、私を愛してくれていたんじゃなかったの?
私とこんなにも離れて暮らしているのに、どうしてあんなに幸せそうなの……?
どうして……あんな顔で笑っているの……?
その笑顔は、私だけに向けてくれていたものじゃなかったの?
こんなんじゃ、まるで……
私なんて、いなくても良かったみたいだよ…………
……ああ……
…………来なければ良かった…………
…………
……
「本当に、もう大丈夫か?」
「……うん」
またしてもディオンの腕の中で泣いてしまった。
今度は、前回とは比べ物にならないくらい酷かった気がする。
それでも、ディオンは文句一つ言わずに、ずっと私の傍にいてくれた。
そんなディオンは、私の手をとって私の部屋まで瞬間移動をした。
出た時は夕焼け色だったこの部屋は、もう真っ暗だ。
あの光景を見た時は頭が真っ白で何も考えられなかったけど、冷静に考えると、あの子は私の妹なんだろう。
パパ、ママって言ってたし。
手紙には、一度もそんなこと書いてなかったのに……
あの子は私の代わりなの?
それで幸せなんだったら……私なんていらない……?
私の様子をじっと見ていたディオンが、口を開く。
「やっぱまだ無理そうだな。なんなら朝まで傍に一緒にいてやろか?」
普段なら『朝まで』なんて言葉に何か反応していただろうけど、今はそんな元気もない。
「おい」
頬を手の甲でペチっとされると、それが引き金になったように再び涙が再び溢れてくる。
「うっ……」
あんなに泣いたのに。
涙は際限を知らないんだろうか。
「苦しいよ……ディオン……」




