私、死にたくない……13
戦争は今にも逃げ出したいほどに怖い。
でも、両親の気持ち、思いが分かってた事は凄く嬉しい。
お父さん、お母さん……
会って話したい事が山のようにあるんだよ。
心の中で、握りしめたネックレスに語りかけた。
「あー、自分の両親なのに、緊張しすぎて喉から心臓が出そう……」
「なんだそれ。バケモンかよ」
「煩い!」
「だから、煩いのはお前だ」
そう言われて口が膨らむ。
「一応もう1回聞くけど、本当に両親に会っても、何かでバレる事はないよね?」
昨夜、ディオンから『心配いらない』と聞いてはいたけど、念のためにもう一度確認しておきたい。
「ああ、両親が言いふらさなければ、バレる事ねぇ……あ、この辺だな」
ディオンは何かに気付いたように地面を見下ろし、急に降下していくから私も続く。
舗装もされていない細い砂利道に降り立ったディオンは、口を開けた。
「ここだ」
その言葉に、ドキっとしてからディオンの視線の先を見る。
「……ここ?」
私の瞳に、とても古びた2階建てのアパートが映った。
全体的にボロボロで、鉄の部分はどこも錆色に変わっている。
「ああ。手紙に書いていた住所はここだ」
「本当にこんな所に人なんて住んでるの?解体前の建物にしか見えないんだけど……」
敷地にはたくさんの雑草が生えていて、まるで廃墟のようだ。
人が住んでいるなんて信じられない。ましてや、ここに私の両親がいるなんて……
ああ、でも昔に住んでいた所も、小さな部屋が2個しか無かったし、壁も触るだけでボロボロと取れてたっけ?
と考えていると、落ちないように服の中に隠れていたラブがぴょこんと顔を出して来た。
その時――
「あ!誰か出て来たぞ」
ディオンの言葉に小さく飛び上がった私は、大慌てでディオンの腕を引っ張り、近くの大きな木の陰に隠れた。
「お前っ、なんで隠れ……」
私は慌ててディオンの口の前に人差し指を立てる。
「しっ」
ディオンは理解できないと言いたげな顔をしたけど、しぶしぶ口を閉じた。
その様子を確認してから、私は木の陰から首を伸ばし、顔だけ覗かせた。
すると、さっきまではいなかった50~60代の男女が、1階の端にある玄関の前に立っていた。
「あれがお前の親か?」
ディオンは、私の頭の上に自分の顎を乗せてくるから「重い!」と小声で言って押しのける。
ディオンは諦めたのか、今度は私の横に立って腕を組んだ。
「で、どうなんだよ」
「うーん……顔がこっちに向かないから分かりにくい」
と言ってる間に、横顔が見えて――
「あっ……」
お父さんと、お母さんだ……っ!!
あれからまた年を重ねた感じはするけど、間違いない!
「…………うん、合ってる」
懐かしい二人の姿に、じわっと目頭が熱くなる。
両親は、もうあの家じゃなくて、このアパートに引っ越してたみたいだ。
今更だけど、何て声をかければいいんだろう。
昨日の夜、色々考えたはずなのに、目の前にするとそんな思考は一瞬で吹き飛んでしまったようだ。
普通に『会いに来たよ』とかでいいかな?変かな?
「おい、いつまでこんな所に隠れてんだ。行くぞ」
と言うと、ディオンは私の手を取った。
「えっ!?」
そして引っ張られた時、とても高い声が耳に飛び込んで来た。
「待って~!」
その高い声に反応してディオンから視線を移すと、両親が出てきた扉から、ぴょこんと10歳にも満たない女の子が飛び出してきた。
そして私のお母さんに言った。
「ままぁ~、待ってって言ったのに~」と。




