私、死にたくない……12
「ああ。何か問題あるのかよ」
「あるでしょ!こ、心の準備とか……」
「は?そんなの向かってる間に準備しろ」
「それに、もうすぐ日付が変わる時間だよ!」
私は、時計を指さしてそう訴える。
ディオンは一瞬、時計を見て顔を曇らせたが、「……大丈夫だろ」と呟いた。
「大丈夫じゃないよ!今ディオンもよくないって顔してたじゃん!」
私の言葉に、そっぽ向くディオン。
「12年ぶりに会うんだよ。……本当に会うのなら、普通の時間がいい」
と言った時、ディオンの手にしていた封筒の中から、手紙がはらりと床に落ちた。
ディオンはすぐに手紙を魔法で拾い上げると、中身を見て片眉をそっと上げた。
「ん?なんだ、このシミみたいなのは。……『こ』?いや、『に』か?」
「それは……両親が私に伝えたかった言葉で……」
「は?どういう事だ?」
私は、あぶり出しをした手紙をベッドの上に広げてディオンに見せた。
するとディオンはじっと手紙を見つめ、目を見開いた。
そして、静かに呟いた。
「はやく……に、げ、て……?」
翌日の放課後――
私は今、両親に会うために、ディオンと空を飛んで向かっている最中だ。
昨日ディオンと話して、会いに行くのは今日にしてもらったけど……緊張しすぎて一睡もできなかった。
「お前、さっきから思ってたけど……今日ひでぇ顔だな」
「う、うるさいわね!あんまり寝てないのよ。見ないでよ」
サッと顔を手で隠すと、ディオンがすぐに私に指を向けた。
すると顔を隠していた手は勝手に顔から離れて行き、寝不足の顔を露わにさせられる。
「ちょっと!人の体勝手に動かさないでっていつも言ってるじゃん!」
キッと睨むと、ディオンはククっと馬鹿にするように笑った。
「にしても面白れぇよな」
「まさか私の顔のこと、なんて言わないよね」
「暗号のことだよ」
「それ、面白いっていうの?」
「面白れぇだろ」
なんとなくその言葉に不満が湧いてくる。
「あのヤバいネックレスをなんでお前に付けたのか、ずっと理由が気になってたけど、昨日の暗号でだいたい答えが分かっちまったな」
ああ、それで昨日あんなに急いでたのね。
本当、ディオンって新しい情報には興味ないけど、分からないことがあると異常に気になる性格だよね。
あぶり出しじゃないかと気付いたあの日、すぐにあのメッセージまでは辿り着いた。
でも、それ以前の手紙の部分はうまく文字が浮かび上がらず、なぜ急いでいるのか、その理由がわからなかった。
どちらにしても、理由が分かったところで逃げられないこの状況に諦めるしかなく……ただただ時間だけが過ぎて行った。
そして昨日、参戦を命じられて、やっと両親が言いたかった事が分かった。
両親は、きっと、こうなる事を懸念していたんだろう。
20年前に戦争があったばかりだし。
私をこの学園に入らせないために、出生届けも出さず、家中に魔力が漏れにくくなる板を張り、魔力制御のためにこのネックレスをつけさせたのかもしれない。
それもこれも、全部私を守るため。
そう……今なら思える。
だから――
このネックレスは、私に対する嫌がらせなんかじゃなかった。
私は、本当に両親に愛されているんだ。
このネックレスは、両親からの愛の証だったんだ。




