私、死にたくない……10
ディオンは、光る板に指をトンと突き付け、大きな駒が1つジワリと光を纏いながら消えていく。
「と……取られた方が、不利になる?とか?」
「そうだ。後は一気に畳みかけられるだけだ。そうなったらこの国も一瞬で終わるだろうな。だから学園長も俺も参戦はしない。それも理由の1つだ」
「ちょっと気になったんだけど、さっきの小さな駒って、私たち?」
「そうだ」
「何それ!酷い!国の偉い人達は、私たちを駒だと思っているって事だよね」
「ああ、そうだな。ってか、そんなの分かってただろ。どの国も上の奴らは漏れなくそんな感じだろ」
「そうなの!?」
そんな上流階級の人たちとなんて関わったことないから、分かるわけない。
「なんで私たちが駒なんかにされなきゃいけないの!?命をなんだと思ってるのよ!」
「なんとも思ってねぇだろうな。ただの駒なんだから」
当然のように言われて、ディオンのせいじゃないのにディオンに八つ当たりしたくなるほど腹が立ってきた。
でも、ディオンに当たるわけにもいかず、この溢れてくる怒りをどこに向けていいのか分からない私は、拳に力を込めた。
勝手に収容しておいて、強制的に駒にさせるなんて……人間のする事じゃない!許せない!
娯楽だなんて馬鹿げた理由で犠牲になるくらいなら、こんな学園からみんなを助け出せたらいいのに!
一人では無理でも、混乱が広がっている今なら、みんなで力を合わせれば抜け出せるかもしれない!
でも……肝心の方法が思いつかない。
前に空を飛んで抜け出そうと試みたけど、見えない壁があって出れなかったんだよね。
私もディオンみたいに瞬間移動が使えたらいいのに……
……あっ!!それよ!
「ディオン」
「ん?」
「私に、瞬間移動のやり方教えてほしい!」
「は?瞬間移動……?って、お前…………、ここから逃げる気だな?」
呆れたように言われた言葉に、私は動揺を隠せずに目を逸らした。
この状況で否定したところで、誰が信じるだろうか。
「バレバレ過ぎんだろ!ってか、そんなの無意味だ」
「無意味じゃないよ!私は空だって飛べるし、魔力が回復したら、きっと出来るよ!それに、ディオンに教えてもらったなんて、口が裂けても言わないから大丈……」
ディオンは、私の言葉を遮った。
「そういう話じゃねぇよ。確かにお前の魔力が回復したら自分だけじゃなく、他の生徒も逃がす事は出来るだろうな」
あれ?思った以上に私の考えが筒抜けに……
「でも、その後が無理なんだよ」
「その後?って?」
「跡形が残るんだよ。魔力の」
あっ……、それって……
「もしかして、みんなの体の周りにあるモヤみたいなものの事だよね?人によって大きさとか色が違うやつ」
手を使って魔力の形をジェスチャーをして伝えると、目をパチクリとさせるディオン。
「お前……まさかそんなに見えてるのか?」
「う……うん?」
大きくなったディオンの目を見て、そんなに驚く事?と、こっちまで驚いてしまう。
「さっきの壁といい、お前、下手したら100年後くらいには俺と変わらないんじゃねぇか」
え!?大魔法使いのディオンと変わらない!?って……100年後!?
「見えるのなら分かるだろ?人によって魔力の種類が違うって」
そう言われて頷く。
「ある意味それは、そいつの住所みたいなものだ」
住所みたいなもの……確かに。
「だから、逃げた所で、捜索依頼されたらすぐに見つかってしまう。見える奴からすると、どっかに隠れてたとしても壁なんて関係なく察知出来てしまうからな。だから無意味だって言ったんだ」
……なるほど。
「そしたら逃げた奴も無駄に塔に入れられて酷い目に合うだけだ。それに、そんな事で戦争から逃げる事は出来ねぇと俺は思う。なんだかんだで上の奴らも必死だからな」
全然駄目じゃん……




