私、死にたくない……9
…………
……
「へぇ。殺されて生まれ変わったっていう前世の記憶か……」
顎に手を当てるディオンは興味津々《きょうみしんしん》な目を向けてくる。
「うん」
ついに私は、ディオンに洗いざらい話をした。
でも、復讐しようと考えている事だけは、どうしても言えなかった。こんな汚い感情を知られたくなくて……
そんな私は、意気地なしだと言われても仕方ないだろう。
「デジャヴ的な脳の錯覚とかじゃなくて、だよな?」
でも、あまり信じてくれてないかもしれない。
「うん。だって生まれた瞬間から覚えてるんだよ?」
「それも脳の錯覚なんじゃねぇの?覚えていたように感じたとか」
「私の言った事、疑ってるの!?」
「いや、信じてぇけど……そんな話聞いた事ねぇし」
パンパンに口を膨らますと、伸びて来た親指と人差し指で頬を挟まれ、空気が抜けていく。
「おもしれぇ。タコみてぇ」
と笑われて、私はムカッとしながら、口の中に墨があったら今すぐその顔にかけてやりたいと思った。
「人が真剣に話してるのに!」
「ん。でもまぁ、信じるよ。お前が言う事だし」
こんな嘘が付けるほど器用じゃねぇしな、とディオンは続けた。
「信じてくれるの?」
あんなに疑われた後だと、それさえも疑わしく思ってしまう。
「んだよ。次はお前が俺の事信じてねぇのかよ」
「し、信じるよ」
「怪しいな」
と疑いの目を向けられ、ふと今の状況に笑いが吹き出してしまう。
「なんだよ」
「おかしいね」
「は?」
「お昼にあんな絶望的な話をされて、誰とも話したくもない気分だったのに……今はこうしてディオンと笑いながら話してる。これも、ディオンの呪いのお蔭なんだろうな……」
ディオンが追いかけて来てくれなかったら、今頃……
「なんだそれ?呪いのお蔭って……」
「だってそうでしょ?」
「呪いなんて無くても、俺はあんなお前を一人にはしなかったと思う」
「え……っ」
その言葉に、ギュンと胸が締め付けられて、嬉しさが一瞬で湧き上がってきた。
「放っておいたら、何をしでかすか分かんねぇしな」
ディオンなりの優しさを感じる言葉に、また勘違いしそうになる。
これも、呪いのせいかもしれないのに……
私は高鳴る胸に手を当てて、話題を変える。
「お、お昼に聞いた学園長の話だけど……」
「ん?」
「なんで戦争なんてするんだろう……」
「さあ?資源や土地が欲しかったりすんだろ」
「その話が、突然なくなったりしないのかな」
「ないだろうな。生徒内で混乱が起きると分かっているのに告知したって事は、もう避けられない状況まで来てるんだろうし」
「そっか……。そういう事なんだね」
学園長側から考えたら、確かにそうなのかもしれない。
「あれ?そういえば話の感じからして生徒しか行かない感じがしたけど、講師や学園長も参戦するよね?同じ魔法使いなんだし」
「しねぇよ」
「なんで?強い人が出た方が勝ちやすいのに」
「馬鹿か。俺とか学園長が出たらとんでもない事になるだろうが。想像してみろ」
「え?とんでもない事……?」
一度想像してみると、私達が無傷で勝利を得る様子が頭上に現れた。
「全然分からないんだけど……」
絶対出た方がいいじゃん。
ディオンは私の言葉に、盛大なため息をついた。
「あっちにも学園長クラスがいるのは分かるよな?」
「うん」
「その学園長クラスの奴らが本気でやりあえば、せっかくの資源も大陸も吹っ飛ぶかもしんねぇだろ」
「えっ、そんな事ある?」
さすがにそれは言い過ぎじゃ……
「ある。実際に過去に例がある。強者が戦争に出るのは互いにリスクがデカすぎるんだよ。お互い様だって分かってるから、変に手を出さねぇようにしてる。それが暗黙の了解ってやつだ」
「……なるほど」
「あと、国の奴らが戦争を娯楽にしてるっていうのもあるな」
「戦争を娯楽?」
そんなバカな……
「例えるならチェスみたいなものだ」
ディオンは手をかざして光る板を出すと、すぐにその上にガラスのような小さな駒がいくつも並べられた。
「チェスは、ある程度の強さの駒が沢山あるから勝敗も予想しづらく手も多くて楽しい。でも大きな駒が2つだけだったらどうだ?」
突然、小さな駒が全て消えると、今度は大きな駒が光を放ちながら2つだけ現れた。
その瞬間、他国の魔法学校の生徒が参戦する理由が、少しだけ理解できた気がした。
「あっ……そっか」
「あと、もう1つ。万が一自分の強い駒を取られたらどうなる?」




