私、死にたくない……8
「は?なんでお前が謝……」
「そんな辛い過去を掘り返させたのは、私だから……だから……ごめん……」
「別に俺は……」
「それにしても……すっごくムカツクッ!!」
と叫ぶと、ディオンは目を点にした。
「ディオンにそんな酷い扱いした人達、今すぐここに並べて全員殴ってやりたい!!」
私の言葉に、ディオンは呆れた目を向けてくる。
「お前……いつからそんな暴力女になったんだ……って、いや、前からか?」
「煩い!」
ディオンは私の声に、片耳に指を突っ込んで鬱陶しそうに顔をしかめた。
「っるせぇのはお前だ!真横で叫ぶな!それに、怒るのか泣くのかどっちかにしろ」
「無理だよ……っ!だって許せないんだもん!!ディオンが……ディオンが何したっていうのよ!!」
言葉を吐き出すたびに、手が震えてくる。
これは悲しみじゃなくて怒りなのかもしれない。
どちらにしても、物心つく前に自分の両親を殺してしまい、殺人鬼呼ばわりされて、卒業したらたった10歳で騙され利用されていたなんて……
あまりにも酷い。
そんな過去があるから、ディオンは人間関係が下手で口も悪く育ったんだ。
今、目の前に小さなディオンが現れたら、抱きしめて思う存分に甘やかして、癒してあげたいくらいだ。そんなのが私に出来るか分からないけど。
「まさか……俺の為に泣いてんのか?」
「そうよ!悪い!?」
ボロボロと零れる涙を拭いてズズっと鼻をすすると、ディオンの指が伸びてきて、私の頬に残った涙を優しく拭った。
視線を向けると、ディオンの表情はさっきまでの険しいものではなく、フッと柔らかく微笑んでいた。
「やっぱ、俺のこと好きなんじゃねぇか?」
そう言われて、心臓がドクンと音を立てた。
私の心の奥を見るかのような目に、また変な汗が出てきそうになる。
「ち……違う!ひ、人としては……す、好きだけど……っ!」
「人……?」
ディオンは私の言葉に一瞬キョトンとした後、ハハッと笑い出した。
「なんだそれ。ほんと、変な奴」
「ど……どっちがよ」
ディオンは……気まぐれだったのかもしれないけど、辛い過去を私に話してくれた。
「ディオン」
「ん」
「ありがとう……話してくれて」
ディオンには悪いけど、あんな顔をしてまで話してくれた事が嬉しかった。
なんだか、心の距離がグンと縮まった気がした。
その事が……とても嬉しかった。
だから私も……
「……ディオンに、聞いてほしい事があるの」
ずっと、誰にも話してこなかったことを――言いたい。




