私、死にたくない……7
私は息を呑み、慎重に尋ねた。
ディオンはおもむろに片手で自分の顔を覆い、重い声で続ける。
「俺は、あいつの言う通り、国民が集まる国の催しの日に、奴と共に国民の前に出た」
「それの、何が間違いだったの?出ただけでしょ」
「そう思うだろ?俺もそう思った。だからあの時二つ返事をしたんだ。
でも、奴は俺が知らない間に俺の事を『私に仕える従士』として、国民に俺を紹介していたんだ」
えっ……。従士って……、使用人とか付き人的な事だよね。
なんでそんな事……
「そんな事とも知らなかった俺は、暫くの間のんきだった。そうしているうちに、奴は、世間では『大魔法使いを従えてる稀代の王子』として有名になって行った」
「そんな……」
「奴がそれを上手く隠していたのもあるが、俺が他人とは関わらなかったせいで、そんな状況に気付くのが酷く遅れてしまった。
気付いた時には、奴は王座争いに勝ち抜いて、俺の力を踏み台にして国をどんどん大きくして行っていた。
結局あいつは、俺を嵌め、騙し、俺の力を踏み台にしたんだ」
酷い……
「そいつの代の時じゃねぇが、その国の勢力の勢いは止まる事を知らず、すぐに世界一の大国になった。
下の代の奴らには関係ねぇって分かってるけど、俺を踏みにじった上で得た世界一という座に、今でも腹が立つ」
「……まさかその国って……」
私の言葉に、静かに目が向く。
「……リヴァーヴァル帝国だ」
衝撃的な話に、動揺が隠せない。
この話が本当なら、ディオンが世界一のリヴァーバル帝国を作ったのも同然だから。
「そ……その後はどうしたの?」
「俺が真相を知ったと分かった途端、奴は俺に手のひらを返したような態度を取って来た。『知ってしまったのなら、もう用済みだ』と国から追い出そうとして来た」
「ひ、酷い……」
ディオンのおかげで大国になったのに、騙したことを謝るわけでもなく、なんてことを……
「だから俺は、あいつにとって呪いみてぇな魔法をかけてやったんだ」
「呪いのような魔法……?」
呪いは闇魔法だ。
でも、ディオンは以前、闇魔法は使った事がないと言っていた。
「それって、どういう魔法なの?」
そう問いかけた途端、ディオンはフッと笑った。
その笑いには、どこか影があった。
「なんだと思う?」
歪んだ笑みを浮かべるディオンの顔から、どれだけ深い怒りと悔しさを抱えているのかが伝わってくる。
「わ……からない……」
「一生、嘘を付けなくなる魔法を使ってやったんだよ。俺に関する記憶を全部消した後でな」
その言葉に、声が出なくなった。
「あいつ、俺以外にも山ほど人を騙してたらしくてな。なのに嘘がつけないもんだから、時間が経つにつれてどんどん人間関係が崩れていった。あれは本当に見ものだった。
しかも俺との記憶を消されてるから、俺に関する話題になると辻褄が合わなくなって、『王子の頭がおかしくなった』って周りから変な目で見られるようになって孤立して行った」
ディオンは笑っていたけど、その奥に潜む悲しみが見えた。
きっと、信じていたんだ。本当の友人だと思って。
それなのに、裏切られて……
「初めっから俺を騙すつもりで近付いたんだとさ。そうじゃないと、お前なんか相手にするわけない、って言いやがった。その時、マジで八つ裂きにしてやろうかと思ったけど……、結果的に殺さずに地獄を見せてやって正解だった。王座からもすぐ降ろされたみてぇだ……し……」
そう話しているディオンは、私を見た途端、目を丸くした。
「お前、何泣いてんだよ!?」
「ごめん……本当に……」
ずっと我慢していた涙が、一度こぼれたら止まらなくなって、次から次へと溢れてくる。




