私、死にたくない……6
ディオンの事だったの!?
「学園生活っていうと……そうだな……、殺人鬼呼ばわりされたり、塔に入れられたりしたっけな……」
やっぱり!
「なんで塔になんかに……」
「魔法で同級生に怪我させただけだ」
だけって……
この学園では、生徒や講師に故意に魔法で怪我をさせると、塔に入れられる。
時々、10代くらいのヤンチャな男子生徒がそういう理由で塔送りになることがある。
そして戻ってきた時には、同世代の男子から英雄みたいに扱われることもあるけど……ディオンの性格からして、そういうのとは違う気がする。
何があったのか、どうして怪我をさせたのか……
それも気になるけど、もっと気になるのは『殺人鬼呼ばわり』の方だ。
「殺人鬼と呼ばれていたのって、まさか……その暴走のせい?」
もしそうだとすると、あまりにも酷い。
「……ああ、そうだ」
ディオンの言葉に、一瞬で胸が苦しくなった。
「なんで?それって、ディオンの意志なんて無いじゃん!」
「ねぇな」
「じゃあ、なんで……なんでそんな事言うのよ!絶対おかしいよ!」
「『意志』が有るとか無いとかじゃねぇんだろ。そんな所気にするのなんてお前位だ。人間の大半は結果しか見ない」
「そんなわけ……」
否定的な言葉を口にした瞬間、前世で結果しか見ない社会を思い出して、口を噤んだ。
悔しさとやるせなさが胸の中に押し寄せてくる。
「まぁ、俺を怖がる奴、怯える奴、面白半分で近付いてくる奴は漏れなくろくでも無い奴で……『楽しい』なんてのは無縁な学園生活だった。
でも、そんな学園生活も7歳で終わったから、本当に一瞬だったけどな」
と投げやりに言った言葉に、噂で聞いた歴代最短で卒業したのがディオンだと知って、再び驚きが隠せなくなった。
「卒業してからはどうしてたっけな……」
ディオンは腕を組んで唸り始める。
「もう……いいよ。十分聞いたから」
と言って止めようとすると、「これで十分なわけねぇだろ」と返されて、私は眉をひそめた。
「そう……だけど……」
でも、こんな辛い過去を言わせたいわけじゃなかった……
「なら大人しく聞いとけ。こんな話、今じゃなきゃしねぇかもしんねぇし」
やっぱり気まぐれだったんだ。
「……ああ、そうだ。10歳で大魔法使いという肩書が付いたんだっけな」
10歳で大魔法使い!?
思い出したように話すディオンの話に、驚きが隠せない。
「ずっと殺人鬼と罵られ、近寄る人間すらいなかったんだが、10歳になって得た肩書のせいで驚く程に人が寄って来るようになった。
優しい言葉、俺に向ける笑顔、貢物の数々……。始めこそ驚き戸惑ったが、俺は次第にそんな奴らに心を開いていった。
……その裏に、どんな企みがあるのかなんて想像すらせずに……。それほどに、俺は本当に幼かった。
……でも、そんな裏の思惑が日を追うごとに見え透いてきて、俺はついには人間不信になりかけた。そんな時、俺はある奴とつるみ始めたんだ」
ディオンにこんな話をさせていいのと迷いながらも、結局耳を傾けてしまう自分が、なんだか情けなく感じた。
「そいつは珍しい奴で、大魔法使いである俺になんの要求もしてこなかった。
小国の王子で、何人もいる王子の中で王座争いをしている最中だっていうのに。
そいつは話術に長けた奴で、一緒に居る時間は悪くなかった。だから、自然とそいつの部屋に入り浸るようになった。初めて友達と呼べるような奴が出来たと思った」
珍しく沢山話すディオンは、自分のことをどこか他人事のように、淡々《たんたん》と語っていた。
「だが、交流を持ってから何年か経った頃『大事な友人として国民に紹介したい』と言いだして来たんだ。まぁいいかと思って、気軽に返事をしたんだが……」
突然ディオンの言葉が途切れ、部屋に沈黙が流れた。
無表情だったディオンの顔に、じわりと怒りが滲み出てくる。
「……あれが、間違いだった」
「な……何があったの……?」




