私、死にたくない……4
「あっ……」
「よっと……」
その穴を当たり前のようにくぐって部屋に入ってくるディオンを見て、私は心の中で大きな悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと……入って来ないでよ!」
しかも、こんな変なタイミングで!
慌てて手の平をディオンに向けて新たな壁を作ろうとした瞬間、ディオンが目にも止まらぬ速さで移動して、私の手首を掴んだ。
「それ以上はやめとけ」
一瞬で縮まった距離に、心臓がドキッと跳ね、少し遅れて小さな風が私の髪を揺らした。
「一回自分の姿を見てみろ」
呆れたように言われ、何のことかと疑問に思いながら、そのまま姿見に視線を移した。
すると――そこに映っていたのは、懐かしさを感じる、黒髪の自分の姿だった。
所々に金色が混じっているメッシュのような黒髪に、何が起きたのかと口を大きく開けた。
「なんで……」
「1つ1つの動作の出力が多すぎなんだよ、馬鹿」
そう言うと、私の鼻先をピンとはじいてきた。
「痛っ」
涙目で鼻をおさえる。
「コントロール力もままならねぇくせに、覚えたての防御壁魔法をこんなに沢山出しやがって」
ディオンはため息をついて続ける。
「俺から逃げようなんて無駄だ。さっさと諦めて魔力を温存しとけ」
そう言われて不満を感じながらも、残っていた防御魔法を全て解除した。
その時、ふと窓の外に夜の色が見えた。
……夜だ。
光の壁に覆われていたせいで、時間が経っていたことに全く気づかなかった。
その時、ある事が頭をよぎった。
「あれ?ディオン、授業は?」
「あの後、あんな状況で普通に授業なんて出来るわけねぇだろ」
そう言われて一瞬で浮かぶ、皆の絶望的な顔。
ディオンは大きなため息をつくと、ベッドを軋ませながら隣にあぐらをかいて座った。
外から差し込む淡い光に照らされたディオンは、じっと私を見つめてくる。
「な、何……?」
その視線は、まるで逃がさないとでも言うように鋭く、私を覗き込んでいた。
「さっきの質問だけど、……お前、俺の事好きなのか?」
再び飛んできたその質問に、「……えっ!?」と動揺し、思わず後ずさりしながら後頭部を壁にゴンッとぶつけてしまう。
鈍い音が部屋から消えた時、再び呆れた顔を向けられ、なんとも恥ずかしい気持ちになった。
「何してんだよ」
「はは……」
なんとか誤魔化せないかと、必死で頭を巡らす。
でも、この真っすぐな目を向けてくるディオンは、どうやっても誤魔化せない気がしてベッドに視線を落とした。
「えっと……」
言葉が詰まる。
「私が、ディ……ディオンのことが、好きかって話だよね?」
「ああ」
「そ、そうだよね……」
横からの視線が痛い。
『好き』という言葉が、もう喉元まで来ている。
でも、メイへの後ろめたさと、告白した事で今の関係を壊してしまうんじゃないか、という不安が、『好き』という言葉を押し留めてしまう。
口を開けては閉じて、また口を開ける。
どうしても言葉が出ない。
そしてついに、私は口から言葉を絞り出した。
「そ、そんなの……」




