私、死にたくない……1
初めての緊急集合に、生徒たちは不安げな表情を浮かべながら、ぞろぞろとグランドに集まってきた。
グランドに集められたのは上級クラス生のみで、下級クラス生は多目的棟の大部屋に集められている。
上級クラスと下級クラスで集合場所が違う事は時々あったけど、緊急集合なんて初めてで、辺り一帯がざわついていた。
ちなみにディオンは、講師たちが並ぶ前方の定位置に静かに立っている。
「生徒諸君!」
学園長の大きな声がグランドの端まで響き渡った。
ラブがその声に驚いて肩から落ちかける。
私はすかさずキャッチして、ホッと胸をなでおろした。
「昼休み中に各々《おのおの》の時間を過ごしている中、素早く集まってくれた事を感謝する」
声先を見ると、グランド前方にふわりと浮かぶ学園長の姿が映った。
「緊急集合をかけたのは言うまでも無く、すぐに知らせなければならない重要な話があったからだ。
だが……君たちの様子を見る限り、この場に呼ばれた理由を、ある程度予想している者がいるように思う。特に……SクラスやAクラス」
学園長は眼鏡の位置を指で正して続けた。
「理由は容易に想像できる。きっと、口の軽い生徒から噂が広まっているのだろう。普段なら言い出し主を見つけて罰する所だが……今そんな暇はないので目を瞑ろうと思う」
学園長のその言葉に、私はふと、ローレンが前に食堂で言いかけた話を思い出した。
もしかして、このこと……?
「まだ何も耳にしていない生徒は、出来るだけ心を取り乱さずに聞いてもらえると助かる」
そう言うと、学園長は一瞬口を閉ざした。
その短い間に、グラウンド全体がざわざわとざわめき始める。
その時、前方の端に立つ警備員のような人達の中に、見慣れないスーツ姿の中年男性が数人いるのが目に入った。
あの人達は誰なんだろう?
首を傾げた瞬間、学園長の重々しい声が再びグランド内に響き渡った。
「単刀直入に言おう。
我が国NIHONは――
近い将来、戦争が勃発する」
その瞬間、グラウンドはまるで嵐の前のようなざわめきに包まれた。
……せ、戦争……?
NIHONが?……えっ?
新手のドッキリかと、信じられない気持ちで学園長を見上げていると、目の端に、横に立つエルバードが頭を抱える姿が映った。
彼は低く呟いた。
「やはりそうか……」
それは、まるで前々から全てを知っていたような口ぶりに思えた。
「今年の4月、訓練場に大きな穴が開いた事は皆も知っている事だろう。あれは…………本当は隕石ではなく、リヴァーヴァル帝国からの宣戦布告だった」
リヴァーヴァル帝国……!?
って、何度か地理で習ったけど、世界で1番大きな隣国だったはず。
リヴァーヴァル帝国は、300年程前まではとても小さな国だった。
なのに、たった300年で急激に勢力を伸ばし、今では世界で一番大きな国になったことで有名だ。
ちなみに、こちらの世界の国の名前は、前世で知っているものとは全く違う。
地形だって全然違うから、NIHONは島国でも無い。
NIHONという名前、NIHONの中にある文化や地名がある程度前世と同じなだけで、この世界は本当に前世とは別世界なんだと思う。
「芳しくなかったNIHONとリヴァーヴァル帝国との関係が、宣戦布告を機に更に悪化してし、今や戦争を避けることはできない状況に至ってしまった。
皆が知るようにリヴァーヴァル帝国は、世界で最も巨大な国だ。通常なら勝つ事は難しいだろう。
皆の知っての通り、我が国は、ちょうど20年前にリヴァーヴァル帝国との闘いに敗北をしている」
習った。
圧倒的な力の差に短期間で敗北し、かなりの魔法使いも犠牲になったって……
「だが……今回こそは勝利を上げれると思っている!20年前のような無残な敗北にはならんと、私はそう信じている!」
あれ?なんだろう。
この違和感……
なんだか、この話の流れだと、まるで……




