手紙の謎17
ダルそうな目が向くと薄く口を開けて言った。
「……ああ、そうだけど?」
…………
……
今日も屋上でディオンと一緒にランチをしている私はとラブは、用意された白いテーブルの上に両手で頬杖をつき、ニヤニヤとした顔でディオンを見つめた。
「大・魔・法・使・い・様っ」
「んだよ、キモい声出すな。熊野郎まで鬱陶しい!」
「凄いよね。まさかディオンがあの大魔法使い様だなんて」
「『あの』って、『どの』だよ」
世界にたった2人しか居ないんだよ?
魔法使いの頂点だよ?
そのうちの1人がディオンだなんて……正直凄すぎるっ!!
まぁ、大魔法使い様に近い存在だとは思っていたけど、近いは近い止まりだし?
あれ?
ディオンが大魔法使い様ということは……
卒業したら大魔法使い様を探す旅に出る必要がなくなったんじゃないの!?
ディオンが平行世界と行き来できる研究をすれば、私の復讐も第一歩を踏み出せるじゃん!
「ねぇ、ディオンは研究者になったりしないの?」
「はぁ!?ならねぇよ」
……そうは上手くいかないよね。
「凄い発見があるかもしれないじゃん」
「あんな缶詰状態で毎日チマチマと研究するなんて、性に合わねぇよ」
あぁ……そんな感じなんだ。
「それに、そういう仕事をする奴は物好きか、何か各々の目的がある奴だけだ。俺は一生する事はねぇよ」
ディオンの言葉を聞いて、ディオンを研究員にするのは無理そうだと思った。
「でも、まだ信じられないっ。ディオンが大魔法使い様だなんて」
「別に信じなくていいぞ」
「えっ!?」
なんて酷い人!
でも大魔法使い様なら多少許せる気がするような、しないような……
でもディオンはディオンだし……
「うーん……」
「ってか、いい加減『様』は止めろ。お前に言われると鳥肌が立つ」
そう言われ、私は思わず口を尖らせた。
「なんでよ」
「念のためもう1回言っとくが、俺が大魔法使いと言う事は絶対に誰にも言うんじゃねぇぞ。他の奴が聞く可能性がある所で『大魔法使い』なんて言葉を使うのも止めろよ」
ブスっとした顔で忠告してくるディオンに、ふと疑問が湧いた。
「どうして、大魔法使いって事を隠してるの?」
「出た。くだらねぇ質問が」
ディオンは苦虫を嚙み潰したような顔を向けてくる。
「くだらなくなくない?」
「くだらねぇよ」
ディオンが大魔法使いだって、教頭先生は知っていた。
なのに私にはずっと秘密なままだった。
今思うと、ディオンにとって私はそれくらいの関係なのかもしれない。
……いや、そんなことない。
秘密にするしないは、仲が良い悪いは関係ないはず。
私だって、仲が良いメイに話せない事がある。
だからディオンにだって、あって当たり前だ。
だとしても、こうして隠されると――やっぱり淋しいな。
距離が近ければ近いほどに、そう感じちゃう。
メイも……
こんな気持ちだったんだろうか。
メイの気持ちを想像すると、酷く胸が痛んだ。
ディオンがあまり答えたがらない様子を見て、私は気持ちを切り替えて話題を変えることにした。
「そういえば、実技ばかりの事について学園長はなんて言ってたの?」
先週、学園長に聞くって言ってたけど……
「まだ聞けてない。学園長が捕まんねぇんだよ」
「捕まらないって?」
「先週、お前と昼飯食った後、園長室に行ってみたんだけど、国の奴らが来てて話せなかった。
で、今日は朝からずっと面会謝絶のままだ」
面会謝絶?そんな事あるんだ。
「何してんのかと思って、窓の外から中の様子を覗いてみたけど、慌ただしい様子で話なんて出来る雰囲気じゃなかった」
「そう……なんだ……」
へぇ、学園長って忙しいんだ、なんてぼんやり考えていたその時――
初めて聞く、警報音のような音が園内に響き渡った。
「突然だが、上級クラス生は至急グランドに集まるように。下級クラス生は……」
それは、学園長からの緊急集合命令だった。




