手紙の謎16
「誰かいるのですか」
低く響いた年配の男性の声に、私は一瞬で息を飲み込んだ。
まるで時間が止まったかのように、私の呼吸も止まってしまう。
その時、心底ラブを友人に預けて来て良かったと思った。
当たり前だけど、静かにして、だなんて言葉は通じないからだ。
足音がだんだんこちらに近づいてくる。
振動がバクバクと嫌な音を立てる。
まるで胸が押しつぶされるような緊張感に、私はディオンのシャツを掴んでいた手に力を込めた。
すると、ふわりとディオンの香りがしてきて、こんな状況なのにドキドキとしてしまう。
その時、足音がすぐ近くでピタリと止まった。
「……あれ?」
年配の男性のような声に、ディオンは体を壁の方に向けたまま、本を片手に首だけ振り返った。
「カミヅキ様でしたか」
「なんだ?」
「カミヅキ様が資料室にいらっしゃるなんて、珍しいですね」
「居たらいけないのか?」
「いえいえ、とんでもございません。ただ、近くを通りかかった時に資料室の方から声が聞こえましたので、確認に来ただけです。もう私は魔力感知も出来ませんので、こうやって足を運ばないと分からないもので」
まるで女生徒みたいに声が高かったような気がしたのですが、聞き間違いだったようです、と続けた。
「そうか」
「お調べ物でございますか?」
「ああ、ちょっと生徒から難しい質問が来てな。度忘れしたから調べてたんだ」
「へぇ。大魔法使い様でも分からない事などあるのですね」
………………へ?
いま、大魔法使い様、って……
いやいや。さすがに聞き間違いに決まってる!
動揺を隠せない私は、コートの中からディオンの端正な顔をゆっくりと見上げる。
「では大魔法使い様、私はそろそろ失礼致しますね。今日は学園長が終日不在ですので、教頭の私が最高責任者になっておりまして……」
ま、また言った!大魔法使い様って!
どういう事!?
「そうか」
ディオンは特に表情を変えずに返事をする。
「お調べ中の所失礼いたしました。ではごゆっくり」
静かに扉が閉まる音が部屋に響いた瞬間、私は待っていたとばかりにディオンに掴みかかる。
「ちょっと!」
「んだよ。引っ張るな、服が伸びるだろ」
そして、部屋の外に漏れないくらいの小さな声で聞いた。
「まさか、ディオンは、…………大魔法使い様なの?」




