手紙の謎11
その質問に、思わず目が大きくなってしまった。
「……えっ……」
アランからは、前にも似たような質問を受けた気がする。
あの時はなんとも思わなかったけど、今は……
ただ聞かれただけなのに早まる心臓に、戸惑ってしまう。
「な、なんなん……って……っ」
頬が熱くなるって、思わず手を添える。
「カミヅキ講師の事、どう思ってるんや?」
「ど、どうって……」
言葉に詰まる。
特別な存在?それとも……好きな人?
そんなの、自分でもまだよく分からない。
もし本当に好きだとしても、アランにそんなこと言えるわけない。
アランは、過去に私に告白した相手なんだから。
「わ……分からない……」
そう言った後にふと見たアランは、何故か驚いた顔をしていた。
「は?……なんなん?分からんて……。まさか好きになったんちゃうやろうな?」
その言葉に、全身が熱くなって、どっと変な汗が出てくる感じがした。
「えっ!?す、す、す、好きなんかじゃないし!!何を言ってるの!?」
心臓が酷くバクバクして、アランの目なんて見れない。
もっと冷静に返せればいいのに、どうしてもそうできない出来ない自分に戸惑う。
その時、椅子を引きずる音が聞こえた。
目をやると、いつも温厚なアランが、明らかに不機嫌な顔をで席を立っていた。
「どう……したの?」
トレーにはまだ食べかけの肉うどんが残っているのに。
「教室戻るわ」
アランは酷く低い声でそう言うと、トレーを手にして背を向けた。
驚く私に、アランは一度も目を合わせることなく、食堂から出て行ってしまった。
あんなアラン、初めて見た。
私……何か悪いこと言った?
眉間にシワを寄せて考え込むと、聞きなれた声が落ちてきた。
「こんにちは。シエルちゃん」
見上げると、向かい側の椅子に手を置くローレンが映り込む。
「あ、こんにちは」
「ここ、座っていいかな?」
「あっ、はい」
そう言うと、いつものように上品に椅子に腰をかけるローレンは、机の上に肘をついて、左右の指先をそっと合わせた。
「珍しいね。ジョウガサキと二人でランチなんて」
ローレンの笑顔には、どこか怒りのようなものが混じって見える気がして、私は目をこすった。
今日の私は疲れているのだろうか。
「アランは、私が落ち込んでるのを見かねて励ましてくれていたんです……」
それなのに、アランはどうしてあんなに不機嫌になってしまったのだろう?
ローレンもなんだか機嫌が悪そうに見えるし……と思って見ていると、今度は眉をひそめられる。
「落ち込んでる?……まさか、この後起こる事を聞いたの?」
ローレンの問いかけに、私はキョトンとして首を傾げた。
「……えっ?この後起こる事って?」
ローレンは悩ましそうに額に手を当てて溜め息をついた。
「違うんだね……」
ローレンは、なんだかとても残念そうに見える。
「シエルちゃんは、学園最年長の方と仲良かったよね」
「エルバードの事ですか?」
「そう。同じクラスでしょ」
「同じクラスですけど……」
エルバードはDクラスだから、今は同じクラスになっている。
「何か聞いてないの?」
「特に変わった事は……」
最近はエルバードの口数も少ないし、どこかよそよそしい。
それに話しても、お花の話くらいだ。
私の返事を聞くと、ローレンは明らかに肩を落とした。
「そうなんだ……」
「どうしたんですか?」
私が問いかけると、ローレンは「ああ!やっぱりシエルちゃんにだけは隠し通したくない!」と言い、突然席を立ち隣に移動してきた。
いつも向かいに座っていたローレンが隣に座るなんて初めてで驚く。
周囲を警戒するように見回したローレンは、声を潜めて言った。
「確実な情報じゃないんだけど、近い将来……良くない事が起こるかもしれない」
その声は小さく、周りの雑音に消されそうだった。
「良くない事?」
不穏な話に、私は思わず唾を飲んだ。
「うん。……僕がいるAクラスは年齢層が高いから、回り回って、今では講師に強く口止めされてるんだけど……」




