手紙の謎5
さすがに、両親が送って来ていたあのメッセージとは関係ないはずなのに……
「なんだ、あれは!?」
と叫ぶ生徒が指差す方向に目を向けると、宙にほぼ透明な丸い何かが薄っすらと見えた。
その丸いものは穴のようにも見えて、ぐっと目を凝らして見つめると、だんだん小さくなっていき、最終的に見えなくなってしまった。
「遅い!」
今度はその怒鳴り声に目をやると、訓練場の近くに立つ学園長とクリフオジサン達の姿が目に入った。
次々に管理事務局の人達や講師も飛んで来て、クレーターのようになった場所を指さして、深刻そうに話し合っている。
生徒の何人かがその場に向かおうとしたが、管理事務員が立ちはだかり、奥が見えない壁を作って進めないようにされていた。
結局、その後午後の授業は中止となり、全生徒に帰宅命令が出された。
私たちは、何も知らされないまま、不安な気持ちでその指示に従うしかなかった。
…………
……
「シエル~!」
「本当に来た!」
「え!?嘘!?シエルお姉ちゃん!?」
初めての大浴場に足を踏み入れた瞬間、バスタオルを巻いた友人たちが一斉に集まってきた。
「えー!?どうしてどうして!?シエルお姉ちゃん大浴場にいるの!?入って大丈夫なの!?」
私の周りを嬉しそうにくるくると回っているのは、Fクラスの時の友人のアリスちゃん。
「うん」
「嬉しい!シエルお姉ちゃん初めてでしょ!?案内してあげるよ!お外にもお風呂があるんだよ!脱衣所はこっちだよ」
目をキラキラさせながら、アリスちゃんが私の手をグイグイと引っ張ってくる。
「待って待って。まだスリッパが……」
…………
……
「ふわぁ~……いい気持ち……」
お風呂に浸かるのなんて、いつぶりだろう。
シャワーと違って、体の芯から癒される~。
そう思いながら肩までお湯に浸かって目を閉じた時、
「なんで今まで大浴場に来なかったの?部屋のシャワーなんてすっごく狭いでしょ!?」と、待っていたかのようにアリスちゃんが質問してきた。
「う、うーん……なんとなく?」
ポリっと頬を掻いて視線を逸らすと、食い入るように視線の先に入ってくるアリスちゃん。
「なんとなく!?おかしいじゃん!絶対ここの方がいいのに!」
「うーん……」
「うーん、じゃ分からない!なんなの教えてよ~!」
駄々《だだ》こねるように言うアリスちゃんに苦笑いを返すと、小突いて入って来たのはメイ。
「もういいでしょ!シエルが言いたくないんだから!」
「だって……」
口を膨らませるアリスちゃん。
「それよりさ、シエル」
「なに?」
「あの訓練場の穴はなんだと思う?」
メイの言葉に、アリスちゃんは目を輝かせて入ってくる。
「えっ!?もしかしてメイお姉ちゃんとシエルお姉ちゃんは、あの穴見たの!?」
「見たわよ。今は結構綺麗になってるらしいけど、あの時は周りの木はなぎ倒されて、訓練場の破片もグランドの遠くの方まで飛んでて、酷いありさまだったわ」
暫くこの話題で持ち切りになるだろう話にすり替えてくれたメイに、心の中でお辞儀する。
「いいなー。私も見たかったなー。
訓練場が大変な事になってるって聞いて、すぐに駆け付けたのに、着いた時には壁みたいなのが出来て見れなくなってたんだよね……」
「なんで隠すんだろね?」
メイの言葉に、私は顎に手を当てて首を傾げる。
「隠してるのかな?普通に危ないからとかじゃないの?」
「そうよね……。言われてみればそうかも」
そう話す私たちに、アリスちゃんは再び間を割って来る。
「ねぇねぇ。2人は何が落ちてきたのか見えた?」
「ううん。あの爆音がしたとき、私達は学食内だったから。グランド側の出口には近い場所だったんだけど……シエルは何か見えた?」
メイから振られて、「ううん。私も何も……」と答えるも、ふとバッタリ会ったローレンの話を思い出した。
「でも、教室でお昼を食べてたローレンが、窓の外から隕石みたいな光る玉が、凄い勢いで空から落ちてくるのを見たって……」
「隕石!?やっぱりそうなんだ!」
興奮を隠せないアリスちゃんは、再び目を輝かせる。
でもメイは眉をひそめて反論する。
「でも、おかしいよ。私は隕石じゃないと思う」