手紙の謎3
不思議な感覚に襲われた直後、この前の出来事が蘇る。
……あっ。そうだ、今はもう無いんだった。
いつもの癖で、つい触ろうとしちゃった……
…………
……
魔力安定待ちの期間、私は自分の部屋でディオンと話をしていた――
『そういえば、私のネックレスはどうなってるの?』
『ああ……』
夕日に半身だけ染まったディオンが首を傾げると、何も無い場所からあのネックレスが現れた。
ベッドに座っていた私は、それを取り戻そうと床に片足を降ろしかけた瞬間、『これは俺が持ってるから』とディオンに言われ、動きを止める。
まるで、こっちに来るな、と言われているようだ。
『どうして?』
『分かるだろ。これに魔力を制御する闇魔法がかけられてんだ』
『そう……だよね……』
取り上げるには十分すぎる理由だけど、それでも私はどこかで引っかかるものを感じていた。
『今、これについて色々調べてる』
『色々……調べてる?』
『ああ』
『何を?』
『上手く出来たら教えてやる』
そんな言葉に私は首を傾げた。
…………
……
ずっとここにあったネックレス。
無くて、凄く淋しい。
でも、あったらあったで悲しかったと思う……
もし……
最初からあのネックレスを付けていなかったら、今頃わたしは卒業間近だったんだろう。
こんな事になるなら、言いつけなんて守らず、もっと早く外しておけばよかった。
そしたら、あのネックレスの正体に早く気づけたかもしれないのに。
でも……もし外していたら、両親が捕まる可能性があったのかもしれない。
あのネックレスは禁忌魔法で作られた闇魔法の魔道具だったんだから。
私は、ディオンが言うには、かなりの魔力を持っているらしい。
私の魔力の暴走を、あのディオンが完全に抑えきれなかったのが、その証拠だ。
そのせいで、私は気を失ったと聞かされた。
ということは、もしディオンの居ない時にネックレスを外していたら、私は――暴走で死んでいたかもしれない。
そんなゾッとする事を想像すると、魔法訓練場の大きなドアが開いて学園の雑務係の制服を着た人が入って来た。
その瞬間、強い風が一気に吹き込む。
雑務係の人はめくり上がりそうなスカートを片手で押さえ、もう片手で大事そうに紙の束を持っている。
その時、突風が彼女の持つ紙を天井に向かって舞い上がらせた。
「ああー!」
雑務係が叫び、紙が散乱する中、数枚がクラスイトの出した火の玉に当たった。
その一枚の紙が風に乗って私の足元に落ちる。
さすが大型台風が接近中なだけある、と思いながら、ほんのり茶色っぽく焦げた紙をそっと持ち上げる。
その時、ふと目に入って来たその焦げた跡が、何かの模様に見えるような気がした。
過去に、こんな光景をどこかで見た気がした。
勝手に過去の記憶の中からあら捜しを始める。
「ありがとうございます」という声が聞こえて紙から視線を上げた。
目の前には手を差し出す雑務係がいる。
「あーあ、焦げちゃいましたね」
「……そうですね」
なんだっけ。
せっかく今、一瞬思い出しかけたのに……と思ってプリントを差し出すと、突然お母さんの声が頭の中に響いた。
『シエル。面白い事をしてあげる』
『面白い事?』
『そうよ。これとこれで秘密のお手紙を書いて、パパをビックリさせよう!』
そう言うお母さんの手には、ミカンと紙があった。
まっ、まさか……っ!!
「どこ行くんですか、タチバナさん」
いきなり立ち上がってこの場を離れようとする私に、Dクラスの講師が驚いたように聞いてくる。
「ほ、保健室に!」
手紙が毎回柑橘系の匂いがしてたのって……
『ほら、じわぁーっと絵が出てくるでしょ?面白いでしょ』
『うん!面白い!』
『シエル、これはね……』
肩で息をしながら自分の部屋の鍵を開け、勢いよくドアを押し開ける。
すぐに机に向かい、引き出しを引っ張って手紙をかき集め始めた。
『あぶり出しって言うのよ』




