手紙の謎2
突然背後から話しかけられ、胸をギクリとさせて振り返ると、すぐ後ろにはアランが立っていた。
「あ、アラン。おはよう」
良く知る顔に、なんだかホッとしてしまう。
アランと同じクラスということを残念と思ったばかりなのに、なんて滑稽なんだろうか。
「おはよう。久しぶりやな」
「あ、そうだね。私が目覚めた日ぶりだね」
メイ達はお見舞いみたいに遊びに来てくれていたけど、女子寮は男子禁制だから。
「そういえばどうだった?女子寮は」
「ん?」
「前に、『女子寮は男のロマンや!死ぬまでに入ってみたい!』って言ってたじゃない?」
「ああ……」
と言うと、コホンと咳払いをして続けた。
「女子寮はなぁ~、とにかく良かったわ!」
「良かった?」
「なんか、めーーっちゃええ匂いやん!なんやあれ!」
「えっ?匂い?」
最初に出てきたのが、それ?
「ほんまに野郎しか居ない場所とは廊下からしても空気が全然違ってん!あの汗くさい、男くさいとは無縁の花のような空気!俺も住めるなら女子寮に住みたいわ!」
イケメンなのに、そんな事を感慨深げに言ってくるから、つい笑ってしまう。
「何それ。なんか変態っぽい」
「誰が変態や!ほんま、特別に許可してくれた管理事務局員に感謝やなぁ。もう一生入れんやろうし」
メイによると、友人達とお見舞いに私の部屋に行った時、いつも通りディオンがいて、突然こう言われたらしい。
『出ていけ』
理由を尋ねると、ディオンはこう続けたそうだ。
『シエルの頭の中を調べたら、シエル自身が意識的に目覚めないようにしている可能性が高い』と。
そして、なんと、これからシエルの意識の中に入ると言ったそう。
『もし途中で目が覚めたら、下手すると2人とも戻って来られなくなる』
そう言い放つと、部屋にいた全員を追い出し、頑丈なシールドを張ったらしい。
数時間経ってシールドが消えたと思うと、ドアが開いた。
そして顔を出したディオンがこう言った。
『もうすぐシエルが目覚める』
そう一言告げると、周りは一瞬で大騒ぎになった。
その情報は音速でアランやローレンの耳にも入り、すぐに駆け付けた二人は、特別にフクロウさんの監視付きで女子寮に入る許可を得たらしい。
監視付きならいいの?って思ったけど、どうやらそれで問題ないみたいだ。
「それにしても前も思ったけど、その髪色と目の色、見慣れへんなぁ」
「だよね。私も」
光るような色の長い髪の毛先を摘まんで苦笑いすると、アランは私の頭上にポンっと手を置いた。
「ま。でも元気そうでホンマ良かったわ」
と言うと、私を屈んで覗き込む。
「ってか、教室入りにくいんか?」
私はその言葉に、さっと視線を下げた。
「……うん。なんか、完全に出遅れたよね」
「まぁ、クラスが変わってもう4カ月も経ってるしな。しゃーない」
その言葉に一瞬沈む心。
「まぁ、でも俺も同じクラスやし、俺が皆に紹介したる」
「えっ!?」
驚く私の肩をグッと抱き寄せ、問答無用でアランは私を引き連れて教室へと足を踏み入れさせた。
まだ心の準備が全然できていないのに、アランは大きな声でクラスメイトに呼びかけるから、私は心の中で悲鳴を上げた。
「おーい、皆注目やでー」
…………
……
結局、アランに紹介してもらったところ、成長して見た目が変わっていただけで元同級生が多かった。
今回の講師は優しそうだし、不安はある程度消えた。
けど……
明らかに数人からは睨まれていた。
これはきっと気のせいじゃない。
「よっしゃ!」
「きゃー!アランカッコイイ~!」
そんな声に顔を上げると、ガッツポーズをするアランの姿が映った。
今は、火の玉を作って的に当てるという小テスト中だ。
私は、しばらく実技的なものはお休みと言われているので、魔法訓練場の端で見学している。
ふと、アランが両手でブイサインを送ってくるのが見えた。
アランがあまりにも普段、普通に接してくるから、つい忘れがちになるけど、アランはまだ私のことを想っているんだろうか?
『俺……こんな気持ち初めてなんや。まだ出会ったばっかやけど、シエルちゃんが好きや。俺と付き合ってほしい』
出会ったばかりの頃に、そんなことを言われた。
しばらくの間はなんとか断ろうとしたけど、聞こえないふりをしたり、話を逸らされたりして結局そのままになってしまっている。
いつまでも私の反応を待つかのようなアランの態度に、遠慮がちに小さく手を振り返す。
すると、アランの背後にいる女子が鬼のような眼差しをこちらに向けてきて、私は慌てて手を引っ込めた。
あぁ~。やっぱり……
Fクラスは平均年齢が7~9歳と低いけど、Dクラスは年齢層がバラバラで、1番多いのは10代だ。
だから、色恋沙汰も多いのかもしれない。
私、このクラスで上手くやっていけるのかな……?正直、不安しかない。
そんなことを考えながら、いつものように心を落ち着かせようと。服越しにネックレスの石を触ろうとした。
でも、手に感じるのはスカスカの布だけで何も掴めない。




