手紙の謎1
「クルック~」と聞こえて声のした方を見ると、朝日が差す部屋の出窓で、手紙を咥えた白い鳥がちょこんと立っていた。
「Dクラス~、タチバナ・シエルさん。Dクラス~、タチバナ・シエルさんにお手紙です~」
学園長の鳥がそう言うと、自慢のベレー帽を見せつけるように頭を下げて、そっと手紙を置いた。
いつもなら、この瞬間が本当に楽しみだった。
なのに、今は……
ネックレスの正体が分かってから両親が信じられなくて、数日前に届いた手紙も読んでいない。
きっと、暫くは読む気なんておきないと思う。
沈むような気持ちで手紙を手に取って、そのまま引き出しに手紙をしまおうとした、その時――甘酸っぱい香りが鼻をついた。
「また……」
思わずスンと鼻を近付けて匂いを嗅ぐと、ミカンのような香りが肺を満たした。
初めて手紙に香りが付いている事に気付いてからというもの、毎回届くたびについ嗅いでしまっている。
そのせいで最近は、柑橘系の匂いを嗅ぐだけで両親を思い出してしまう位だ。
顔から引きはがした手紙には、『愛するシエルへ』と綺麗な字で書かれている。
「本当に……?」
返ってくるはずのない問い掛けに、むなしさが湧き上がる。
本当に私を愛してくれていたのなら、どういうして、あのネックレスを私に付けさせたの?
あんな、人の命を犠牲にして作られた恐ろしい物を……たった4歳の私に付けた理由は何?とても正気だとは思えない。
もし私に魔力があると気づいていたなら、あんな物をつけさせて『寝るときも外しちゃダメだ』と厳しく言い聞かせた両親の意図は一体何?
確かに、検診で魔力があると分かると何年も会えなくなるし、顔さえ見れなくなる。
でも、それを避ける為に人の命を犠牲にした物を付けさせるなんて、理解が出来ない。
それに、このネックレスを付けられていなかったら……
私は今頃卒業目前だったに違いない。出来損ないだって、馬鹿にされる事もなかった。
……両親の事が分からない。
直接、聞けたらどれほどいいのだろうと思う反面、きっと目の前にいても、私は怖くて聞けないとも思う。
真実をはっきりさせるのが怖いから。
意気地無しの私は、もし『本当は大して愛されていなかった』という事実を突きつけられたら、それを受け止めれる自信なんて、到底ないから。
……まだ、愛されているという可能性を、少しでも信じていたいから……
…………
……
目、腫れてないよね?
結局朝から泣いてしまった私は、瞼の腫れを気にしながら、初めて訪れたD-1と書かれた教室の前で足を止めた。
上級クラスの人数は多く、下級クラスと違って級毎に2,3クラスに分かれている。なのに、残念なことにまたアランと同じクラスだ。
教室の中を覗くと、見える顔ぶれは全く知らない人たちばかり。
……入りづらい。
「こんなところで、何してるんや」




