4カ月遅れの誕生日11
そう言われてディオンを見上げると、目と鼻の先にディオンの顔があって……
私はドキッと目を見開いた。
飛ぶようにディオンから離れた私はの心臓は、一気にドドドと酷い音を立て始める。
一瞬で熱を持った頬を押さえながら、どうしてこんなに動揺するのか分からず、混乱してしまう。
「ご、ごめん……」
ディオンは、じっと私を見つめてくるだけで何も言わない。
その視線に、さらに心がざわついて平常心を保てなくなりそうだった。
「は、花火も魔法なんだよね?」
なんとかこの場の空気を変えたくて、私は慌てて話を振った。
「は?当たり前だろ?それ以外に何があんだよ。たぶん、あのあたりにでもいるんだろ」
ディオンはそう言うと、顎でどこかを指さした。
私はディオンが差した方向を見たけど、そこには木々が生い茂っているだけだった。
「誰も……いないみたいだけど?」
不思議な気持ちでディオンを見上げる。
「こっからは見えねぇけどいるんだよ」
「そうなんだ。でも誰が?」
「打ち上げの奴に決まってんだろ」
「え?今魔法使いが打ち上げをやってるって事?」
「さっきから何当たり前の事言ってんだ。魔法使いがやらなくて誰がやるんだよ。魔法会でもそうだろ?普通にイベント事の賑やかし職の奴だ」
魔法会のもそうだったんだ。
理解出来ないけど、この世の中はそういうものらしい。
「よく分からないけど、こんな綺麗な花火を魔法で作れるなんて凄いよね。こんな素敵な景色が見れて、本当によかった」
「大袈裟だな」
「大袈裟なんかじゃないよ!数か月遅れだけど、すっごく素敵な誕生日になったよ!ディオンありがとう!」
笑顔でそう答えると、ディオンは少し眉を上げ、なぜか口を尖らせた。
「あ、終わったのかな。もっと見ていたいくらい本当に綺麗だったな。でも、そろそろ戻った方がいいんだろうね」
時計がないから分からないけど、凄い時間になってそうだ。
名残惜しい気持ちでベンチから立ち上がろうとすると、グッと手首を掴まれた。
振り向いた私は、ディオンに「まだ座ってろ」と言われて無理やり座らされる。
「何?」
ディオンにキョトンとした顔を向ける。
すると、突然ディオンが立ち上がった。
そんな様子を不思議な気持ちで見上げていると、突然ディオンは空に両手かざした。
その、次の瞬間――
真っ黒な夜空に、驚くほどの光の花が一斉に咲き誇った。
真っ黒になった空一面に、驚く程の光りの花が咲き輝く。
さっきまでの物とは比べ物にならない程の圧倒的な輝きに、全身にビッシリと鳥肌が立って、目の大きさが倍になった。
「……っ!!」
直後、ドドドドッと地響きのような爆音が鼓膜を揺らす。
繊細で美しい光の花が、空いっぱいに数えきれないほど咲き広がり、目が眩むほどだ。
周りからは空気を割るような歓声が響き、私は驚きで固まったまま、あんぐりと口を開けたまま動けない。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
空から光が消えた時、視界の端でディオンが勢いよく座る姿が映る。
その姿を見た瞬間、ようやく我に返った。
「…………す…………凄っ……」
あまりの美しさに、腰が抜けそうになる。
こんな光景を目の前にして、改めてディオンの魔力の凄さを実感した。
「凄いってのはこういうのを言うんだよ」
「……うん……本当に凄いよ。ディオン!すっごく綺麗で感動した!」
そう言って笑顔を向けると、ディオンは立膝の上に肘を置き、口元を手で隠した。
その時、ディオンの白銀の前髪に、黒い筋が何本か入っているのが目に入った。
「あれ?なんかディオンの髪……黒くない?」




