4カ月遅れの誕生日10
目の前には不機嫌な顔をしたディオン。
顔が赤くなってしまいそうな予感に、再び目を逸らした。
「なに目ぇ逸らしてんだよ。お前ごときが」
「な……何よ!お前ごときって、本当、ディオンって俺様だよね!」
「なんだよ、俺様って?それが足を治してやった相手に言う言葉か」
「うっ……」
確かに……
「さっき、何考えてた?」
「えっ……?」
「いつも以上に変な顔してたぞ」
そう言われてカッとなる。
「呪いのことを考えてたのよ!」
「は?呪い?」
「どんな呪いなんだろうって、教えてくれないのはどうしてなんだろう?って!」
「お前に関係ねぇだろ」
「私に関係無くないでしょ!?その呪いのせいで危険だと知りながら、あんな所まで助けに来てくれたんでしょ!?」
私にとっては助かったけど……
私の問いかけに、ディオンはどこか遠くを見て無視を決めこむ。
「やっぱり関係あるんじゃん。なのになんで教えてくれないの!?そんなに言いにくい事なの!?」
そう食い下がると、ディオンはふと視線を落とし、ポツリと呟いた。
「言いにくい……?」
私は自問自答するディオンを静かに見守った。
「分かんねぇな……。いや、言いにくいのかもしんねぇな……だからか?」
ディオンは前髪を掴んで、再びゆっくりと口を開けた。
「……おかしいんだよ」
「おかしい?」
「ああ。お前と出会ってから……。こんなの、全然俺らしくねぇのに……」
私は眉をひそめてディオンの顔を見つめた。
「俺は、もう誰とも慣れ合わねぇって決めてたんだ……。こんな風に誰かと関わるのも、俺らしくない……」
ディオンは静かに言いながら、苦しそうに目を細めて言葉を絞り出す。
「なのに……お前といると、俺自身が……」
「ディオン……」
その時、突然大きな爆発音が空に響いた。
「キャアッ!!」
驚いて咄嗟にディオンに強くしがみついた瞬間、なぜか周囲から歓声が上がった。
「馬鹿、ビビり過ぎだ」
ディオンの冷静な声が落ちて来る。
「ただの花火だ」
私はそんな言葉に、パチクリと目を開けた。
ディオンの胸元に顔を埋めたまま、周囲に目をやると、空からキラキラと星のような光の粒が降り注いでいた。
光の粒が落ちきる前に、地面からヒューっと高い音を立てながら光の筋が空へと上がっていく。
そして、パッと空に大きな光の花を咲かせた。
「うわぁ……」
思わず声を漏らす私の耳に、再び大きな爆音が響いて、鼓膜が震えた。
私は今まで、魔法会の後の打ち上げを除けば、まともに花火を見たことがなかった。
勤務先のビルの窓から、時々見える花火の端をちらりと見たくらい。
だけど、今日は何にも遮られず、目の前に広がる色とりどりの花火が、暗い夜空に鮮やかに咲いていた。
「綺麗……」
大きな花火が何度も何度も夜空に開いては、肌を震わせるほどの音を立てながら、ゆっくりと光が落ちていく。
光と影のコントラストは、魔法会での夕焼けの空とは違って、深い夜に映える美しさを感じた。
「おい。いつまでくっついてんだよ」




