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1000~2000人に1人の存在6

…………


……


もう、あの家には帰れないの?

(さら)いだと思ったコスプレ集団は、国の決まり従って動いているだけで、両親がその決まりを破っていた?


『悪い人』って……?

それが本当だとすると、両親の方が悪い人になってしまう。


それに、悪いようにはしないって言ったけど、本当に信じていいのだろうか。

どこまで信じて、どこから疑えばいいのか分からない。



そんなことを考えながら学園長と書かれた部屋を出ると、すぐにキャッキャと騒ぐ声が耳に届き、目を向けた。


廊下の奥には、あずき色の制服に短めの黒いローブを羽織った女子達が、教科書とステッキを手に楽しげに歩いていた。

その笑い声や仕草から、彼女たちが不遇な扱いを受けていないことが伝わってくる。



もしかしたら、丸眼鏡の男が言っていたことは本当なのかもしれない――

そんな思いが頭をよぎる。


混乱したまま、私はクリフという男の後ろについて建物を出た。


すると、目の前に真ん中がくぼんだ、大きすぎる綿菓子のような入道雲が現れた。


「乗って」

「の……乗る?」

どこにどう乗るの?っていうか、それ以前にこれは乗り物なの!?


よく見ると、窪みは座席の形をしてなくもないような気がする。



「そうだよ。学園内の敷地はすっごく広いから、歩いて回ると疲れるからね」

「さっきみたいな感じで移動しないんですか?」


「さっきみたいな感じ……?」

あごに手を添えて空を仰ぐと、すぐにポンと手を叩いた。



「ああ!瞬間移動の事?」

「た、多分……?」


「あれねー、今日はもう3回も使ってるから絶対無理。多分、あともう1回でも使ったらマジで死ぬ」

その言葉に首を傾げる。


「瞬間移動っていうのは、普通1回でも酷い疲労感が溜まるんだよ。まぁ俺は1日4回まで出来るけどな!」


そうドヤ顔で言ったクリフは、綿菓子のような物に乗り込む。

私はそれを真似て、見よう見まねで乗り込んだ。

背やお尻にふわふわしたクッションのような感覚が伝わる。


「じゃあ行くから、掴まっててね」

「えっ!?掴まる……?」

って、どこを!?


そう聞く間もなく、謎の乗り物は走り出した。

謎の乗り物は異様な速さで加速していく。


ほほの肉が全部後頭部に持っていかれるんじゃないかと思うほどの凄まじいスピードに、腹の底から叫び声が出た。


「キャァァァァーーーーー!!」


前世で言うなら、これは時速300kmのオープンカーに乗っている感覚だろう。もちろん、そんなもの乗った事なんて無いけど。



私はその後、レストランを数箇所、大図書館、服屋、化粧品とかも売ってる雑貨屋、展望台、大きなグランドに体育館、ジムにプールなどを案内された。


移動の度にあのスピードを出され、目が回りそうになりながらも、学園内は必要最小限どころかお店や娯楽まで揃っていて、まるで小さな町みたいだと思った。


あの丸眼鏡メガネの人が言ってた事はまだ完全に信じられないけど、本当なのかもしれない。


だって、ただの人さらいなら、騙す為だけにこんな大掛かりで手の込んだことをするはずがない。そんなの、なんのメリットもない。



でも……、認めたくない。


認めてしまったら、両親が私の出生届を出さなかったこと、町が吹き飛ぶ危険を知りながら検査を受けさせなかったこと――そのどれもが真実だと認めざるを得なくなるから。


うつむく私の耳に、数人の笑い声が飛び込んで来た。



目をやると、『学生』と言うには年齢が行きすぎている人達が数人見えた。


「オジサン。さっきから思っていたんですけど、生徒の年齢、ちょっと高くないですか?」

私は20代後半から30代前半くらいのグループを指さす。


「オジサンじゃないってさっき言っただろ?()()()()()()だよ、クリフ兄さん」

「クリフオジサン……」

「いやいや、こう見えてまだ20代だから!マジでそんな年に見えるかなぁ」

不貞腐ふてくされるクリフオジサンを見て、やっぱり『悪い人』には見えないと思った。



「疲れてるからもういいや。また明日説明されると思うけど、卒業までの最短は10年だ」


「えっ!?最短で10年!?」

驚きの事実に、私は大きな声を出した。


「な、長すぎないですか!?ってことは早くて15歳で卒業って事ですよね」

指折り数えながら目をく。


「そうなるな。ってかお前賢いな。実は天才か?」

ただ前世の記憶があるだけなのに、天才と言われてポリっと頬を掻いた。


「そうだなぁ。最短15歳って事になるな。ただ、ごくまれに飛び級する奴もいるけど、ここ何十年もいないらしいし、基本的に無いと思った方がいい。

進級試験に落ちればその分卒業も遅れるし、上のクラスになるほど年齢はバラバラだ。あれくらいの年になっても卒業できない奴なんて五万といる」


その話に大きく肩を落としたところで、乗っていた入道雲がピタリと止まった。



「着いたぞ。ここがチビスケがこれから住む場所だ」


そう言われて目を向けると、すぐ横に立派な建物が見えた。

建物の手前には少し年季の入った背の高い門があり、『女子寮』と書かれていた。


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