4カ月遅れの誕生日6
ありえない程の高さからすぐに落下していく感覚に、思い出したくもないのに学園の屋根から突き落とされた時の記憶を引き出してしまった。
そんなデジャブ要らないのに!
なにが償いよ!何が誕生日祝いよ!!
いつも言ってることとやってる事がめちゃくちゃなのよ――!!
悔しくて泣きそうになると、
「何やってんだよ。さっさと飛べよ」
という声がすぐ近くから聞こえた。
強くつむっていた目を恐る恐る開けると、私と同じ速度で落下するディオンの姿が目に飛び込んでくる。
「ディ、ディオン!さっきの場所に戻してよ!
この前までFクラスだった私が飛べるわけないじゃん!!」
「お前は飛べる。俺を信じろ」
そう言ってくるディオンの目は、嘘を言ってるようには見えない。
だから、出待ちしていた山のような文句が一瞬で引っこんでしまった。
「じゃあ、……せめて飛び方くらい教えてよ!!」
「んなの要らねぇだろ。感覚でやれよ」
「か、感覚ぅーー!?」
何言ってんの!?思わず目を白黒させてしまう。
「ほら、いいからやってみろ」
「だから、やってみろって……ほんと無理っ!感覚なんて分からない!本当めちゃくちゃだよっ!授業の時みたいに真面目に教えてよ――!!」
半泣きになりながらそう叫ぶと、盛大なため息をつかれる。
「早くっ!このままだとスライムになっちゃう!」
「自分が浮き上がるイメージを頭に描く、それだけだ」
ってかスライムってなんだ?と呟くディオン。
「イメージを……描く?ほ、本当にそれだけ?」
「ああ、それだけだ」
そんな馬鹿な……
「たったそれだけの事で……出来るわけが…………」
全く信じられない。
そんなの嘘に決まってる。
そう思いながらも、藁にもすがる気持ちで言われた通りに浮き上がるイメージを頭に描いてみる。
すると――凄いスピードで動いていた景色が、突然ピタリと止まった。
「へっ…………。……と……止まった?」
「な、出来ただろ?」
な、出来ただろ?じゃないわよ!この鬼畜講師が!
って叫びたい所だけど……信じられない!!本当に浮いてる!!
「くくっ……、それにしても面白れぇ髪型だな」
そう笑ってくるディオンの髪は超逆立っている。
何故かと言うと、今私たちは、上下逆さまの状態で静止しているからだ。
だから私も同じような状態だと、すぐに予想出来てしまう。
「何言ってんのよ。ディオンだって」
そう言うと、一瞬でイラッとした顔になってクルリと自分だけ上下を回転させた。
「あっ!ズルい!」
私もディオンに続こうとしてみるけど、ジタバタするだけで上手くひっくり返れない。
全く泳げない人みたいな動きをしていると、「下手くそ」と馬鹿にしてくるから、頬をパンパンに膨らませた。
宙に浮くディオンは微笑みながら、無駄に長い足を組んで頬杖をつき、高みの見物をしている。
「笑ってないで、どうやったら戻れるのか教えてよ!」
と叫ぶと、体が突然クルリとひっくり返った。
出来た!
喜びを噛み締めながらディオンに顔を向ける。
すると、ディオンがこちらに指を向けているのが目に入って、自分の力じゃない事を知った。
「まだまだ難しそうだな。でも、すぐに出来るようになるだろ」
そうなんだ。
でも、浮くようになっただけで十分過ぎるんだけど。
その時、どこからともなく音楽が私の耳に入ってきた。
音の元を探すように辺りを見下ろすと、ひときわ明るく、賑やかな音楽が流れる開けた場所が目に入った。
「あそこは何?」
指さした場所に顔を向けるディオンは、首を傾げた。
「なんだろうな。気になるか?」
「うん」
「じゃあ、行ってみるか」
ディオンはすぐに私に背を向け、一人だけ先に進み始める様子に目を大きくした。
「えっ!!」
私の大きな声に、上半身だけ振り返ったディオンは、ダルそうに顎をグイっと上げた。
「何ぼんやりしてんだ。行くぞ」
「いやいや、行くぞって……もしかして、私一人で……とかじゃないよね?」
さすがに、そんなわけないよね?と不安に駆られつつ、自分の顔を指差す。
すると、
「はぁ?一人に決まってんだろ」
と、ディオンは当然のように言った。
えぇーー!?
「そ、そんなの無理だよ!」
今さっきたまたま浮けたけど……
「これくらいの距離、無理なわけねぇだろ。ごちゃごちゃ言わずにやってみろ」
という言葉が耳に入った瞬間、ディオンの背中が一瞬で小さくなった。
「ちょっと待……っああ!!早っ!!」
ディオンに伸ばした手は、役目も果たせずそのまま固まる。




